第3話



「マヤ……お前……何、いつこんなのを覚えたんだ?」

「こんなのって?」 

「こんな……あ、や……おい、ちょっと……完全に変態だぞ、お前」

それはまるで人形遊びのように。
マヤの右手の指は俺を支えるようにして背中に回り、適度な弾力のあるそれはまるでクッションのように居心地がいい。
人差し指の第一関節に頬を寄せてみると、親指が遊ぶように髪を撫でてくれる。
中指は腹の上から脚の上を擦るように動き回り、小指は後ろからギクリとする程卑猥な動きで絡みついてくる。
柔らかな皮膚の上にはうっすらとした文様が幾重にも渦巻いていて、そのざらついた感触がいちいち皮膚の敏感な感覚を刺激してゆく。
絶え間ないその刺激に、俺は背筋を震わせながら惨めに喘ぎ声を押し殺している有様だ。
握り潰されそうな恐怖が余計に感覚を鋭くさせているのかもしれない。
時折皮膚の上を滑る爪の冷たさに心臓がギクリと跳ね上がる。

「……でも、速水さん何だか気持ちよさそう。
 そんな顔されたら、もっと可愛がってあげたいなーなんて、勝手に手が」

「うわっ、それはストップ……ないって、やめ……」

「もう、今更何焦ってるんですか」

突然、脚の間を割って小指が突き上げてきた。
反射的に脚を擦り合わせて遮ろうとするも、無駄な抵抗だった。
もっともマヤの言うとおり、硬く張りつめたそれはスラックスの上からでもはっきりと形がわかる程で、今更隠しようもないのだが。それでも、抵抗するのとしないのとは違うような気がする。
いくら何でもそれはない、というこのモヤモヤの理由は……やはり、男として、好きな女の目の前で小さくなっている、という状態はプライドが許さないのだろう――そんなもの、ガタガタに壊して捨ててしまえればいいのに。

「自分で脱ぎますか?それともあたしが脱がせますか?」

マヤの小指の上で股を開げて究極の二択を迫られる、というこのあまりの状況。
だが、小さくなった時点で既に理性も常識も土台は確実に揺らいでいる。
何よりマヤにさんざ弄られた身体は更なる刺激を貪欲に求めていた。
俺は浅く溜息をつき、人生初ではないかと思われる行為で応えた。
つまり――思いっきり上目遣いで、媚びる女のように囁いたのだ。

「脱がして、思う存分、スキにしてくれない?」

――数十秒後。
視界は白と黒の光の簾で織りなされている。
机の上に仰向けになった俺に額をくっつけるようにして被さると、マヤは俺の衣服を全て剥ぎ取った。
流石に下着まで剥がされた時には、倒錯的な興奮よりも緊張の方が強かったが。
それもマヤのとろんと溶けるような視線にぶつかるとどうしようもなかった。
まるで磨きこまれた鏡の表面のような瞳孔に、倒錯的な興奮を隠しきれない俺の顔が浮かび上がるのが見える。
キイ、っと椅子を手前に引く音。
姿勢を改めてまじまじと俺を見下ろすその視線からは、どこか子供っぽい好奇心と、紛れもない嗜虐的な興奮が見て取れた。

「……あのね、あたし……男の人のハダカ、とか……み、みたり触ったりするのって、初めてで」

「そりゃそうだろうな」

「だから、うまくできないかも……しかも、速水さんそんな小さいし」

「……悪かったな。まあ、失敗して食べられても文句は言わん。
 もしそうなったら水城君あたりに見つからないように、新聞紙で包んで燃えるゴミに出して始末してくれ」

「……もう、何でこんな状況でそんな悪趣味な冗談言えるんですか」

ふうっと、甘い溜息がかかる。
その刺激に下半身が忽ち反応するのを見て、マヤはきらきら光る瞳を一層大きく瞬かせた。

「うわ……だんだん大きくなってきた」

いや、そんな直球で卑猥なセリフはやめてくれ。つい我に返りそうになる――癖に、見られているだけで……既に完全に勃起しきっている、変態なのは俺の方か。

「舐めてもいいですか?」

「……どうぞ」

マヤはゆっくりと唇を近づけてくる。
先ほどの咀嚼紙一重の愛撫の間に唇は真っ赤に熟れ、濡れて光っている。
明らかに興奮しているのだろう、呼吸が荒い。
再び、甘くつんとした匂いに全身を包まれたかと思うと――舌先が伸び、そそり立つ先端につん、と触れられた。

「っ……」

「あ」

マヤは驚いて舌を引っ込めた。

「い、痛いですか?」

「い、や……大丈夫だ……」

「じゃあ、もうちょっと」

言うなり、今度はもっとしっかりと嬲られる。
彼女にとっては舌先で飴玉でも転がしている程度なのかもしれないが。
こちらとしては得体の知れない触手にぞわぞわと全身を侵食されているような心持で、気持ち悪さと同時のとてつもない快感に思わず背筋が反り返る。
舌は次第に大胆に、無遠慮な動きになってゆき、爪先から太腿、腰回りから喉へと向かって忙しなく往復し、俺の全身はマヤの唾液で塗りつぶされてゆく。
快感に身を捩りながら、仰向けになった俺は徐々に机の上を這い上がってゆく。
椅子に腰かけたマヤは両腕で壁をつくってその先を遮り、俺を追い詰めた。
そして次の瞬間。

「む……」

「……ん、ぐっ!?」

情けない悲鳴はマヤの咥内にくぐもって消えた。
全身を、まるで横抱きにされるように咥えられてしまったのだ。
両腕より下は全て、すっぽりとマヤの口の中にある。
舌の裏側の蕩けるようなく窪みに片脚が滑り落ち、もう片方は舌の上に乗った、極めて不安定で、淫らな姿勢。
まるく尖った前歯の先が鎖骨にそっとあてがわれたのがわかる。
そして始まる、頭蓋まで揺さぶられるような、無限に続くかのような、圧倒的な快楽――

上顎の裏に押しつぶされ、ざらざらした襞に強く擦りつけられたかと思うと。
すぐに後ろから舌が脚の間を割ってやってくる。
ちゅうちゅうと、まるで絞り出すように吸い上げられる。
……まるで全身に性感帯が張り巡らされたかのように。
気持ち良すぎて。頭の奥が痺れて。もはや指先すら動かすことができない。
硬く反り返ったものを執拗に攻めてくる、彼女の動きとは思えないほど緻密で隠微なその動きに、俺は今や抑えることなく声を出し、喘ぎ続けた。

「うふ……あ、マ……ヤ、っ……あ、あ、や……」

「ふぐっ……んん……」

情けない声。
声にもならない、やがてそれは動物的な咆哮になる。息が出来ない。
唾液で喉が詰まりそうになる。何度かえずき、堪らず吐いてしまった。
湿った密室でマヤに犯され、徐々に沈み込み、やがて頭の先まで巻き取られて、押しつぶされて、甘く咀嚼されて、もう死んだっていい、本当に。

くちゅ……ちゅうううっ……

――吸い上げる音。マヤが俺を吸い上げる音。音と刺激が俺の身体を、心を、どろどろに溶かしてゆく。恥も、自制心も、もうどこにも、何も残らない程に吸い上げて、吸い尽くして。空っぽにしてくれ、俺を、俺の全てを、お前の内部で、噛み砕いて、溶かして――お願いだから。


「あふ……っ……」


ずるりと。
大量の唾液に交じる、白い体液と共に。
俺の身体はマヤの掌の上に滑り落ちた。
つううっと、ねばついた糸が唇の端から垂れ下がる。
それを白い柱のような指先が拭い去るのをぼんやりとした視界の端で捉えた。

「……きもち……よかった、ですか?」

真っ赤に頬を上気させ、目の端になぜか涙を浮かべながら、マヤがそっと囁く。
俺は乱れた息を何とか整え、さて一体何と答えたものだかと、額に垂れ下がった濡れた髪を掻き上げた、その時。


「嘘……ですよね、速水さん……」

「……全くの素面とは言い難いが、俺も君も一応意識はあると思うぞ」


楽しげに言い放った俺の耳に次に飛び込んできたのは、鈴を転がすようなか細い声。


「嘘〜っ!!ぎゃああああっ、で、でかっ……いやあああ!!!」


驚愕の叫びも、今やぶんぶん唸るハチの羽ばたき程度のようなもので。
俺はこみ上げる爽快感と……笑いを堪えきれず、この所自分でもとんと耳にしたことのない笑い声を存分に社長室に響かせた。
やばい、楽しい、これは……もう、どうしようもない。

「うるさっ……速水さん、声うるさいっ!!」

「は……ふは、ははははは!マ、ヤ、お前……名刺入れと同じサイズじゃないか!?」

「もーう、やめてよ、耳が痛いっ」

「心の底から言ってやる……ざ ま あ み ろ」

「さ、最低――!!」

マヤは全身の毛を逆立てた猫のようにいきり立つ、が、その姿は完全なる「チビちゃん」そのもの。
椅子の上でぴょんぴょん飛び跳ねる姿は子猫よりもちびっこい。
俺は素っ裸のまま(もちろん、頭の先から脚の先まで濡れて湿っているのだが)デスクの縁に腰を掛け、すっかり姿の逆転してしまったマヤを摘み上げて手のひらに落とし込んだ。
まるで親指姫状態のマヤは……先ほどの行為の後の艶っぽさなどどこかに消し飛んでしまい、ただただ人形のように可愛いらしく、怒りと戸惑いで震えている。

「どうやら、イクと元に戻るみたいだな」

「え!?」

「戻してくれてありがとう。服は台無しだが、命拾いはしたようだし、存分に楽しませてもらったし。
 3倍返しで御礼を差し上げなくてはな」

――20分前、巨大なマヤが浮かべたものと寸分違わぬ笑顔で囁いて。

俺は愛しい、可愛い、小さなマヤに食べるようなキスをした。


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――サイズフェティッシュについて。
これ、ライラの幼少期トラウマに関わるエピソードがありまして。
詳細はまたいつかの機会にまとめたいと思いますが、ずーーっと書いてみたい題材でありました。
オトギ話の類の逸話にはサイズフェチを連想させるお話が幾つかありますよね。
親指姫しかり。赤頭巾しかり。一寸法師しかり。
wikiで『ドラゴンボール』が出てきたのには爆笑しましたが。うん、確かにセルの18号融合シーンなんかは中々……それをいったら初期のピッコロ大魔王様のクチから卵も中々……あれ、DBって実は……!?
閑話休題。
ところで今回、初めてネットでソレ系のお話を読んでみたのですが、圧倒的に書き手は男性が多いですね!
縮んだ男性が大きな女に〜ってシチュがほとんどの様です。
フロイトさんじゃなくても何となくその理由を勘ぐってみたくなりますね。『熱海秘宝館』を訪れた際、館内の至る場所で巨大な女の胸やお尻、目玉に出会ったことを思い出しました(ジオラマ一寸法師なんてのもあったっけ)。
ご拝読、スペシャルサンクスでした!!!

last updated/10/11/09

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