ずびずびな後書きはコチラ。
last updated/10/11/23
本当に可愛そうだとは思うのだが、普段より確実に弱っている彼女を責めるのは何ともいえず愉しい……という訳で、形ばかりの抵抗を無視して押し倒したのが5分前の事。 ただでさえ感じやすい肌は微熱を帯び全身隈なく上気しており、軽く擦っただけで体感温度は更に上昇したことだろう。 汗ばんだ額をタオルで拭いてやりつつ、パジャマの裾に潜りこませた片手で胸を揉みしだく、という矛盾した行為を愉しんでいると、突然彼女が咳込み始めた。 「げほっ……も、う……最悪。絶対うつしてやる、から……っ、くっしょん!!」 「熱に喉に鼻に、まさに三重苦だな。可愛そうに」 「ちっとも可愛そうとか思ってないでしょ!もう、頭痛いんです!寝かせて下さいっ」 「ほら、早くうつしてみろ。協力してやるから」 「もーう、嫌っ……ゴホッ……大っ嫌い!」 きつく眉根を寄せてみても、涙で潤んだ眼で見つめてしまっては逆効果というものだ。 俺の邪な期待はますます昂ぶるばかりで、一応冷えないようにと覆いかぶさった自分の肩の上から彼女の首の下まで布団を引き寄せると、その中で本格的に愛撫を始めることにした。 暗闇の中で全てのボタンを解き放ち、湿った肌を顕にする。 両手を這わせてみれば驚く程に熱い――いや、情欲のせいというよりも、間違いなく風邪のお蔭で。 「何度だった?」 「さっきは37度5分でした――立派な病人なんですっ……お願いだからそういうのもう……」 「38度だったら良心が痛む、8度5分なら流石に諦める。が、7度5分なら丁度いい位だ」 「はあ?……あ、も……う、やめ……」 「動くだけ動いたら案外スッキリするんじゃないか」 しれっと呟いて、既に隆起しはじめている胸の先端を口に含んだ。 途端に熱い身体が弓なりにしなり、きつく寄せられた両膝の力が緩んだのを察する。 そのままタオル地のズボンを引き降ろしてみると、案の定、汗やら何やらで下着はぐしょ濡れだ。これは脱がしてやるのが親切というものだろう。 「速水さん……あたし……」 「その気になったか?」 「見損ないました――紫……む、ぐっ……う〜っ!」 「病人の癖に煩いぞ。ちょっと黙ってろ」 掌で口元を覆い、“紫のバラの人”への訴えを封じ込める。 悪いが、その人と俺とは都合よく入れ替わることがあって――と、言い訳しなくても既にわかってるんだろうが。 掌をどけようと手首に纏わりつく抵抗をものともせず、引き剥がした下着をベッドの下に放り出して右足首を掴み上げる。左足を膝で抑え込んで広げて固定した頃には、流石に無駄な抵抗は諦めたようだった。 そのまま上半身を傾けて顔を埋める。 いきなり?っと彼女が竦み上がるのが手に取る様にわかる。 そう、いきなりだ。何といっても君は病人なんだから。事は手早く済ませるに限る。これでかなり優しいと思わないか? 「……!……!!」 声にならない声が掌の中で蠢いている。 熱い溜息にくぐもったその声。 舌を突き出すと同時に、甘酸っぱい彼女の薫りが鼻孔に立ち込める。 汗ばんだ身体から立ち上る匂いと共に、それはとてつもない媚薬となって俺の脳髄を蝕んでゆく。 思わせぶりな動きなど封印して、牛乳を舐めしゃぶる猫か何かのように無心に、欲望の趣くままに。 最初からぬらぬらと濡れていた隙間は忽ち滴り出し、その奥に潜んでいた小さな粒の薄皮を前歯で甘噛みしてみせると、手首にかかっていた圧迫感が一層強くなった。 ふと思いついて鼻の先でくすぐってみると、思った以上に狼狽し始め、くったりと力の抜けていた下半身が左右に揺れる。面白くなったので顎の先でも刺激してみた。慣れない箇所で繊細な部分に触れられるのはさぞ恥ずかしく、居心地が悪いことだろう。そこでようやく掌を外してみた。 「あっ……あぁんっ……ぁ」 ずるっと外れた掌の下に現れた口からは、思いがけず高い声が零れた。 抑え込まれていたのをいいことに、存分にその下で喘いでいたのだろう事が暴露され、俺はもうこみ上げる笑いを抑えることができない。 「マヤ……」 こちらも息苦しくなってきたこともあり、汗でベタベタの肌を撫で上げながら彼女の首元から顔を出した。見ればこれ以上ない程紅く染まった頬には夥しい量の涙と汗、そして鼻水でぐしゃぐしゃの有様だ。 何の咎もないのに苛められ尽くし、泣き疲れた幼児とでもいった具合の顔。 流石に少しばかり自分の身勝手さを恥じた。 ――が、同時にそんな彼女が物凄く可愛い、と思ってしまうのだからどうしようもない。 もう、何て有様だ、マヤ、本当に。 情けなくって、惨めったらしくて、でもとんでもなく可愛い――これはもう病的だ。 「ひっく……ひ、どい、ほ、ホントに……きついのにぃ……っ」 ぐすっと、病人染みた音で鼻を啜ると。 捲れたパジャマの襟の下から覗きかけた肩を抱くようにして、マヤはしゃくり上げ始めた。 確かにこのところの彼女のスケジュールは些か異常で、一昨日は完徹、今夜もドラマの撮影でスタジオに13時間籠りっきりの死闘を経て帰ってきたところだった。 1時間前、珍しく先に帰宅していた俺がドアを開けて迎えると、彼女は文字通り腕の中に倒れ込んできた。どこからどう見ても風邪菌を抱えて疲労困憊、といった具合で。その時は俺もこんな風に苛めてやるつもりは当然なくて、久々に彼女と共に過ごす夜だというのについてない、と溜息をついた程度だったのだが――そして冒頭に至る、という訳だ。 「すまん……ちょっとやりすぎた――かもしれんが、だからってそんな幼稚園児みたいな泣き方するな」 「うるさいっ――もう、あっちいって……ゲホッ……よ!最低、変態!!」 「ほら鼻かんで――」 「あーーーーー!!!!も、っうぐしゅん、へっくしゅ、ぶしゅんっ!!!」 一応真剣に謝っているつもりなのだが、どうにも言葉の端々で彼女をからかわずにはいられない悪癖は治しようがなく、彼女の反応ときたらその悪癖を助長させるばかりなのだ。 ベッド脇に腕を伸ばしてティッシュケースから何枚かひっつかみ、ずびずびの鼻の先に突き出してやる。そんな親切にもいちいち苛立ち、怒鳴ろうとしたところで酷いくしゃみの嵐に襲われたマヤは、堪えきれずそのまま俺の掌の薄紙の中に顔を突っ込んだ。 盛大に鼻をかむその音に、当然忍び笑いが止まらない。 まずい、このままだと高笑いになってよけい怒りを招く――落ち着いて、深呼吸をして…… 「仰向けで鼻かんでどうする。そのまま横になれ」 「う……」 抵抗を続ける力もないのだろう、言われるがままぐったりと横になる。 ぺったりと頬に張り付いた髪を掻き分けながら、背後から抱くようにして新たな紙を補給してやった。 怠そうに腕を動かそうとするのを押しとどめ、そのまま鼻を摘み上げてやる。 「ほら、とってやるから出せ」 「……ありがと……」 ぼそっ、と掠れた声で呟いて、そのまま眉をしかめて肩を震わせる――何回か繰り返しているうちに、ようやく鼻で息が出来るようになったようだった。 ふと子供の頃、何かのテレビで、動物園かどこかで風邪をひいた子ザルの鼻を口で啜り上げる母ザルの映像を見たのを思い出した。あの時は子供心に、いくら可愛い我が子でも鼻水はないよなあ、と思ったものだが。今こうしているとそうした行為も然程特別なことでも何でもないような気がしてくるから不思議だ。 「少しは楽になったか?」 「ん……あ、耳がなおった」 「詰まってたのか」 「うん。今鼻かんだら元に戻ったみたい――気持ち悪かった」 そんな状態で変に体を弄られたのでは、どれ程良いものでも良くは感じられないだろう。 そっと額を撫でてみると、先ほどより少し体温が上昇しているような気もする。 ――全く。君のせいではないと頭ではわかっているつもりなんだが。 何だってこんな時に風邪なんてひいたんだ、マヤ。 君とこうしてまともな意識のあるうちに会話するなんて何日ぶりだと思ってる。 まして今日は日曜日で。にも関わらず互いに休日返上で働き尽くめで。 明日からまたすれ違うばかりの日々――の空しさを埋め合わせる行為の全てを「風邪」なんぞのせいで指を咥えて諦めるなんてのは…… 「ごめんね……」 「え?」 「お休み、全然合わないよね――なのにあたし、風邪なんかひいちゃって。 明日もお仕事なのに、うつっちゃったら――大変だし、今夜はあっちの部屋で寝ていいよ?」 「絶対うつしてやるんじゃないのか?」 「冗〜談ですよ……誰かさんと違ってコドモじゃないの…… 社長さんが倒れちゃったら、皆が迷惑しちゃうでしょ――」 痰の絡まった、熱のこもった掠れ声が異様に艶っぽい――なんてつい考えてしまうのがいけないのだ。 俺は深く深く溜息をつき、開いたパジャマの前を掻き合わせながら背を丸めるマヤを軽く抱きしめた。布団の中とはいえ、脱がされて剥き出しの下半身には温かみが足りないだろうから、片脚を絡めて胸の中に閉じ込める。 程よい温もりと暗闇の中、熱く汗ばんだちっぽけなマヤをこうしているのは、まるであのサルの母子のような、はたまた有袋類の母子のような――そんな気分にもなる。全く同時に、今すぐ彼女を無理矢理に……と実直な欲望も捨てきれないところがかなり矛盾しているのだが。 「君が寝苦しくないなら、俺はこのままがいい」 「鼻かんだり咳込んだりするから――うるさいですよ?」 「いいよ別に――もう、寝よう。俺も疲れた」 「うん……」 照明をもう一段階落とし、周囲のものの輪郭が見える程度の闇をつくると。 弱弱しい隙間風のようなマヤの吐息をBGMに、次第に瞼が重くなってゆく―― ・・・・・ ・・・・・ 「……マヤ」 「……」 「眠れないのか」 「ねむり……たいんです、けど」 狭い気道の奥から漏れる、か細い声。 睡眠の要求を妨げる、熱の塊。 やや痺れた指先を這わせ、可愛い矛盾に満ちた場所へと。 「ん……途中で寝ちゃう……よ?」 「――そうかな」 あくまで緩慢に、差し入れた二本の指を奥へと潜らせてゆく。 温かい内臓の圧迫、滑りと共に締め付けてくる狭くて深い寝床の中。 太腿の上に乗せた脚と同じように、捩じりながら絡みつけてみる。 「ぁ――!」 「窒息するぞ……顔出せ」 「はあっ……っつ、息――で、き……っ!」 ゆっくりと、だが確実に追い詰めてゆく刺激に身を捩らせながら、マヤはどんどん俺の腕の中をずり落ちてゆこうとする。いったん布団の縁まで引き上げてやると、喘ぎながら外の冷たい空気を胸に含ませ、両手を俺の手首に押し付けてくる。 小さな彼女の身体に俺が本気で絡みつくと、見事にホールドされて解けなくなる。更に今は体力も気力も限界の為か、強すぎる刺激を拒もうとする手の力もそれこそ幼児さながらだ。とはいえ、こちらも当然手加減はしている――疲れて眠いのは本当なのだし。 どこもかしこも俺を堕落させるために出来ている、としか思えない。 眠くて半ば茫然としているはずなのに的確に動く自分の身体が自分のものとは思えない。 どろどろに溶けた意識は彼女のそれと矛盾なく混ざり合う。 全てを剥ぎ取ったマヤを仰向けのまま胸の上に乗せる。 ゆったりとした抜き差しを繰り返しながら、熱すぎる肌を隈なく撫で回す。 完全に鼻が詰まってしまったのか、喘いでいるのは快楽の為なのか息の出来ない苦痛の為なのか判別がつかない――恐らくその両方、なんだろうが。 「ふっ……ひぃ、あ、ん――あ、やだ、また――耳が、いた……」 背筋を弓なりにしならせながら、細い悲鳴が上がる。 ようやく目を開けてみれば、またしても顔がぐちゃぐちゃになっている。 全く、世話の焼ける子だ。 「こっち向いて」 「え――あ……」 素早くひっくり返して、そのまま挿入する。 互いにぼんやりしていた意識も、ここにきて怠惰を決め込むわけにはいかなくなったとみえ、脊椎の奥から突き上げる衝撃に二人して言葉を失った。 「あ――ああ、あ……はっ、あっ……は、やみさ――」 「ああもう――鼻、ほら、何とかしろ」 「ふ――ぐしゅん、ぐしゅっ……ご、めん――」 ぎしぎしと軋むスプリング、縮み上がる彼女の肩、籠った湿気、身体中、一滴残らず搾り取られるような―― 「ごめん、なんか――ぜんぜん、色気、とかなくって」 「何を今更」 「ふっくしゅ!……う、いまさらって――ん、や……ぁぁあっ」 腰に巡らした手を無遠慮に揺さぶり、深く抉り上げる。 薄紙の塊を手放して、マヤが俺の胸にしがみ付く。 汗も、涙も、唾液も、鼻水も、ついでに風邪の菌も全部、存分に擦り付けて貪れ――そうだ、そうやって――俺も、お前の全部、残らず吸い尽くして、搾り取ってやる――― ぶるぶると震える背中に爪を立てながら、詰まってよく聞こえないであろう鼓膜にむかってそんなような事を囁き続けた―― ――三日日後。 「39度……大台突入間近だな――」 「な、何平然としてるんですかーっ!?せっかく下がったと思ったのに無理して仕事なんかするから――今すぐ救急病院行いかなくちゃ!」 慌てふためきつつ、早くもタクシーを呼ぼうと携帯を開きかけているマヤの周囲の風景が完全に浮き上がって回転している――これは確かに酷い熱かもしれない。見事にうつされた、というわけか。 「――はい、ええ、すぐ、お願いします。……15分後に着くって! 明日は絶対休まないと――って、ちょっと、速水さん!?」 「15分――ギリギリだな……」 「ちょっと、本当に!!そんなコトしてる場合じゃないでしょ!眼も真っ赤だし……」 リビングの床は流石に冷たい――かといってベッドに連れ込んだのでは本当に動けなくなってしまう。 「……速水さん、何、これ」 「え?」 首元に埋めた顔を押し戻そうと苦戦していたマヤの手が止まる。 そのまま顔をぐいっと引き上げられ、まじまじと凝視されるがままに任せていると―― 「うっわ、うわー!!……これってまさか――」 「何」 「鏡見てくださいよっ」 圧迫からやっとの思いですり抜け、居間から手鏡を持ってきたマヤが映し出してみせるのを気怠く確認してみると、そこに広がっていたのは。 「……麻疹?」 ああ――そういえば今年も流行の兆しがあるとかないとかニュースになっていたような。 赤ちゃんの時に予防接種しなかったんですか、何で今頃、とか喚いている彼女に向かって、1回の接種による免疫持続は14年が限度らしいぞ――などと解説する気力もなく、俺はそのまま意識を失ってしまったのだった―― END.
ずびずびな後書きはコチラ。
last updated/10/11/23