第9話




本作品には以下の傾向を含みます。

暴力/流血/マス×マヤ以外のCP


プラザホテルに設けれられたレセプション会場では既に関係者の挨拶がすまされ、出演者の舞台挨拶が始まっていた。 今喋っているのはハリウッドでも有名な二枚目スターだが、それでも真澄が舞台中央に立った時ほどのどよめきと注目の視線は巻き起こらなかった。 こうした場面に於いて改めて表面化するのが、彼の持つ呆れるほどのカリスマ性だ、と会場の隅で見守りながら水城は思う。 この時散々マスコミ取り上げられたせいで彼の顔は瞬く間にお茶の間に知れ渡る事となってしまったのだが、そのクールなルックスと様々な噂を背負った速水真澄という男こそ、今夜の宴の主役なのだと、彼を厭うもの好むものの差に関わらずそう思わざるを得ない様な一場面だったのだ。 大勢の関係者と警備員に溢れかえった会場内には、少なからず警察関係者も紛れ込んでいた。 確かに、昨日の夕方に起こった郭成貴の殺害事件と真澄の拉致脱出事件に関して警察は深い疑惑の眼を真澄に傾けていた。 彼が狙われ、また公にこそ伏せられているが二日前に彼の妻である北島マヤが誘拐された一件が、青道幇と浅からぬ関わりがあるらしい大都グループ前会長の速水英介と無関係であるはずがない、というのが捜査本部内の共通認識だった。 が――実の所、上層部はこの件に関し深入りするのを避けたがっている。 青道幇の影響力は組織内部にも浸透しており、日本における白狼代理・郭成貴の死によりバランスを欠いた台湾マフィア間の抗争が激化するのは避けられない――となれば、事を荒立てずに済ませるには速水真澄の一件に眼を瞑るのが最も合理的だからだ。 が、組織の全てが腐りきっているわけではないので、真澄の動向に厳しい視線を遣る者も当然いる。 その筆頭に立つのが、北島マヤ誘拐事件の捜査本部長である二宮昌弘という男だった。 生粋のエリート官僚として出世を重ねてきた人物で、真澄と年は同じだった。 まだ若いが故に純粋な正義感を持っており、大都という一流企業が裏でマフィアと繋がりがある、というような事例に黙っていられるような男ではなかったのだ。 上層部のやんわりとした”忠告“を擦りぬけつつ、二宮は昨夜直に真澄の取り調べにあたった。 全く――あんなにタフで食えない男と差しでやりあうのは二宮にとって初めての事だった。 二日前には妻を誘拐され、今日は自身が拉致騒ぎに巻き込まれ、ほとんど眠っていない所でわざと仕組んだ誘導尋問にも全く怯むことなく、淡々と同じ事しか喋らない。 しかもその供述には一部の矛盾も隙もなく、それがかえって二宮の疑いを深める結果となった。 あんな騒動に巻き込まれた人間が、あれ程冷静に前後事実を把握し、分析できるものだろうか。 この騒動は最初から彼の計画の内であり、青道幇の主権争いに彼も一枚噛んでいるのではないか――と。 素人がマフィア間の銃撃戦から奇跡的に生還する、などと二宮は考えていない。 殺された郭成貴と大都との間に何かあったか、もしかすると速水自身が成貴を殺害した可能性だってある。 昨日中央テレビを訪れた彼は、何一つ顔色を変えることなく成貴の側近と共に社屋を出る姿が目撃されている。 監視カメラにもしっかりとその姿は収められており、二宮も確認したが、とても目の前で人が殺されたのを目撃した人間の態度ではなかった。 あの余裕は絶対に殺害者の側のものだ、と二宮は踏んだ。 側近――矢上、と名乗っていた男の姿が襲撃現場から忽然と姿を消したのも解せない。 速水はあの男に拉致されたのだと言ったが、逆ではないか。 鉄砲玉として成貴の懐に潜り込んでいた矢上を、あの男が始末した――白昼の銃撃戦は仕組まれたものではないか、と。 そう疑えるだけの状況証拠こそあるが、未だ確実な物的証拠がない。 唯一の手がかりは、やはりあの男の動向を押さえる以外はないだろう―― と、二宮は最も信用できる部下二名に命じて昨夜から彼の警護と称した監視を徹底していた。 (全く……あれが妻を誘拐されて憔悴しきった男の顔か?俺は信じないね――) 会場各所に仕掛けた監視カメラの映像を睨み付けながら、二宮は心中で呟いた。 彼は今、レセプション会場の上階にとった一室に数名の部下と共に引きこもっている。 出演者の挨拶が終わり、記者からの質問が始まると、速水はさり気なく舞台上から姿を消した。 「斉藤、石倉、二人とも彼から眼を離すなよ」 マイクに向かって小さく囁くと、了解、と双方から返事が返ってくる。 舞台を降り、マスコミの集まる前から消えた速水真澄は、警護の男たちを引き連れたまま関係者以外立ち入り禁止の控室で秘書と打ち合わせ中の様子だった。 部下に仕掛けた盗聴器からそのやり取りが聞こえてくるが、今夜のレセプションに関する事以外の話題は聞き取れなかった。 「――至急持ってきてくれ。では……ああ、まだいらっしゃったんですか」 「勿論です、ご自宅に戻られるまで警護させてもらいますからご安心を」 「私の警護はどうでもいい――それより妻の捜索はどうなっているのですか?  もう二日になる……何の情報も寄越さない所をみると、捜査は全く進展していない様ですね」 「その件に関しては私の口からは何も。捜査部長から連絡が入りますまで、ご辛抱下さい」 「……わかりました。この後本社に戻らなければならないのですが、運転の手配までして頂けるんですか?」 小馬鹿にしたような笑顔が目に浮かぶ――と、マイクから漏れてくる低音の声に耳をそばだてながら二宮は舌打ちした。 「勿論だ、絶対に目を離すな」 マイクに向かって囁くと同時に、承ります、と部下が答える声が聞こえる。 「二人で彼を挟んで駐車場へ向え。余計な人間を挟みたくないから報道陣は避ける。  ルートはこちらで指定する」 ホテル内の見取り図を広げ、会場内の警官に素早く手配を済ませ、安全なルートをつくる。 ふと、わざと彼を泳がせて尻尾を掴んだ方がいいのでは――との考えが過ぎった。 だがそれにはあまりに此処は人が多すぎる。 紛れ込まれてしまっては見失う可能性の方が高かった。 取調べでの様子や、周辺からの情報を集めてみても、彼にとって三ヶ月前に入籍だけ済ませている年の離れた妻、を非常に心配しているのは確かな様だった。 あの男がそうした感情を持ち合わせている――というのはやや意外な気もするが、あれが演技だとは二宮も流石に思わない。 北島マヤの誘拐自体は彼にとっても想定外だったのだろう。 その相手、彼にとっては敵にあたる人物と、近々絶対に接触するはずだ。 その時こそが、大都と青道幇の繋がりを抑えるチャンスのはずだった。 「……捜査部長、大変です」 と、その時、近くでどこかから報告を受けていたらしい部下の一人が慌てた声を上げた。 「ホテル地下の廃棄物処理室で――さ、斉藤捜査官と石倉捜査官が……発見されました!!」 「――何!?」 ギョッとしてモニター画面を睨み付ける。 手配した人気のないホテルの通路、真ん中に速水真澄の長身が、その前に斉藤という捜査官と石倉という捜査官がぴたりと付き添って歩いている。 三人が曲り角を回った……瞬間、速水の身体がぐらりと揺れるのが飛び込んできた。 前方を歩いていた、今は画面の死角になって見えない斉藤が、どうやら殴りつけた様だった。 足元がふらついた所で、背後の石倉が手に持った何か白いものを彼の口に押し当て――たかと思うと、三人の男の姿は瞬く間に画面から消え去った。 慌てて死角の側のカメラを確認するが、映っているのは砂嵐だ。 「しまった……また逃げられるぞ、会場を封鎖しろ!!」 瞬く間に間に会場内方々に潜んでいた警官に指揮が飛び、厳戒態勢が敷かれた。 関係者を全てホテル内に囲い込むという強引な手段だったが、元々警官の数自体が然程多くはない事もあり、不審を抱いた報道陣を中心に大騒動となった。 その中で二宮は非常に的確に動いた、と評されるべきだったのだろう。 会場の混乱を取りあえず鎮め、ホテル側との協議の上泊り客のいる部屋はおろか全ての部屋の捜索を的確に進めている間に、大勢の応援部隊を呼び集めた。 それでも、速水真澄と捜査官にすり替わった二人の男の行方は忽然と掴めなかった。 二時間後、全ての関係者が、映画のキャストも含め一人一人厳重なチェックを受けた後解放されたが――その中に、速水真澄らしき男は勿論の事、怪しい人物の影すらも見受けられなかった。 二時間半後、大都グループ会長・速水真澄が再び拉致された、というニュースは、彼の妻である北島マヤの誘拐事件と共に緊急テロップ付きで全国に報道された。

高速で降りてゆく箱の中で、三半規管が僅かに軋む不快に速水真澄は眉を顰めた。 あの拉致騒ぎは勿論トラップで、後に警察に言い訳をつくる為の芝居だ。 前後に挟んでいたのは捜査官にすり替わった聖と、もう一人の部下。 二人に別の手配を命じた後、真澄は単独で李照青の指定した“パーティー”会場に向かっている。 クラブ・ムーン・ライトは都内の高層ビルに居を構えるような場所に存在するのではない。 プラザホテルの四階、高級ホテルであるプラザホテルの中では最も下のランクの一室。 とはいえ、そこも普通のホテルのスイート並の広さと華美さを伴うのだが―― その部屋にあるクローゼットの奥こそが、ムーン・ライトの入り口なのだ。 その存在は薄々小耳に挟んではいたが、裏の世界に深入りしている訳でもない真澄にとっては直接関係のない場所のはずだった。 世界中から集まってくるというVIPの類は、全て裏社会と深い繋がりを持つものばかり。 表の世界で堂々と名を売りながら、文字通り地下でも大きな権力を握る人物、というのは世間が想像する以上に溢れかえっている。 今夜はその只中に――得体の知れない李照青という男の正体を見極める為に、彼は向かっている。 其処に必ずマヤに繋がる何かがあるはずだ――と、半ば祈りながら。 クローゼットの片隅のスイッチを押すと、何の変哲もない壁にスッと隙間が開く。 その更に隅に或る突起を軽く擦ると、蓋がスライドして暗証番号を入力する画面が現れた。 李に指定された番号を入力すると、金属の扉が音もなく左右に開き、それが地下に直通するエレベーターの内部だった。 一体、地下何階になるのだろうか―― ようやく耳鳴りが止まり、身体が僅かに揺れて箱が停まるまで、少なくとも三分はかかったはずだ、と時計を確認しながら真澄は思った。 静かに開いた扉の外に出た彼の目の前に広がる光景は――これはまるで、昔絵本か何かで読んだ「竜宮城」だな――と、半ば呆気にとられながらそう思った。 一歩踏み出すと、背後で静かに扉が閉まる。 呆れるほど高い、先が見通せない程長く伸びた天井。 巧みに配置された青系の照明が幻想的な空間を演出していた。 広大な敷地内には中国風の庭園が築かれ、すぐ目の前には広々とした池まである。 足元の地面には本物の草木や花々が植えられ、蝶まで飛んでいた。 温度湿度は適温に定められているのだろう、遠くで胡弓の物悲しい音色が響いていた。 どうやら音響システムの類ではなく、生演奏の音の様だ。 池にかかった石橋の向こうに、現代建築と明朝時代の中国建築をミックスしたような豪奢な建物が広がっている。 地上三階建て程の高さはあり、朱に塗られた壁は足元の照明を浴びて艶やかな光沢を浮かべていた。 やはり朱塗りの柱には螺鈿で描かれた竜が炎を噴き、煌煌と明かりの灯る高楼にはクラシカルな飾り窓が並んでおり……確かに、少なからぬ人の気配がした。 だが――胡弓の音色以外、何一つ人の声が漏れ聞こえないのが不気味である。 この中に――李照青はいるのだろうか。 そして、マヤが…… まるで悪い夢でも……と思った自分の頭を振り、意志の力を整える。 馬鹿馬鹿しい程の金と妄想の詰まったようなこの空間に飲みこまれてはいけない。 これは夢でも何でもなく、マヤは未だ自分の腕の中から消えたままだ。 再び手に入れるまで、夢に逃げ込んでいる場合ではない。 大きく息を突くと――真澄は、目の前に伸びる橋の上に向かって歩き始めた。

この先、石橋の向こうに潜むエロ描写には3パターンを用意しております。 注意書きをよくお読みになり、嗜好錯誤の上お進みください。 どのバージョンを選んでもエンディングは同じ地点に舞い戻ります。 *マスマヤ以外のエロはちょっと無理!なノーマルverを御所望の方は→ コチラ。 *マスマヤ×照青絡みのちょっとアレ…な描写も含まれる、アブノーマルverを御所望の方は→コチラ。 *マスマヤ×照青絡みのマジな3P…描写を含む更にアブノーマルverを御所望の方は→コチラ。 各バージョン共にくれぐれも自己責任に於いて閲覧下さいませ><; web拍手 by FC2

last updated/01/30/

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