第2話



アナルセックス含みます。苦手な方はリターンで。

 

抱き寄せてみた時、硬く滑らかで人形のようにさえ思われた少女の肌が思いの他熱く火照っている事に気づき、真澄は少なからず驚いた。 先程の彼女の他愛無い一言で眠気は一瞬遠のいたが、その熱で彼の意識と生理的な感覚は完全に目覚めたようだった。彼にとってその腕の中で小鳥の心臓の様に震える少女は、いつだって不可思議な情熱の拠り所なのだ。 その証に、冷たく血など通っていないのだと揶揄される自分の心臓が―― 「きゅん」、としか形容できないような音を立てて呻くのを確かに聞いた。 よりによって、きゅん、だぞ。 ……有り得ない、と、二年前の自分なら言うだろう。 「――理由の一つは、利害の一致。コレは君にはまだ教えたくないから秘密にしておこう。  でも一番の理由は、やっぱり俺も男だから、という一言に尽きる」 「え……だから、女の人が好きだってこと、でしょ?普通じゃないんですか?」 「違う。それとこれは多分全然違う。 いくら何でも男と女の身体の仕組みくらい知ってるんだろ、保健の授業か何かで」 「し、知ってますよそれ位……それと、速水さんが人嫌いの癖に女の人と“お付き合い”する事に何の関係があるんですか」 真っ赤になりながらも、いまいち腑に落ちないといった様子で首を傾げるマヤの小さな顔を見下ろしながら、真澄はどこからどう説明したものか、と内心溜息をつく。何なら今すぐこの場で保健体育の体験学習を始めてもいい――と、極めてオヤジ臭い冗談を言いかけて何とか堪えた。自分の悪趣味な冗談でこれまで幾度この子を激怒させてきたかわかったものではないのだ。 珍しく大人しく、むしろ従順にさえ見える今夜、このひと時くらいは。 熱く滑らかなそ少女のすぐ傍に居て、他愛無い言葉の隙間に真実を織り交ぜながら、その狂おしいまでの情熱でもって腐ったこの身体を慰めたい。 彼女の熱は、かつて冷たい水の底で死んだはずの何かを嫌でも揺り動かす。 誰かに愛されたい――愛したい、と、いう。 それこそ、有り得ない感情の存在を…… 「――ややこしい生物学用語で解説されるのと、ちょっと勇気を出して実体験に拠って理解するのと、どっちがいいかなチビちゃんは」 ――結局、最初に口を滑らせかけたのと大差ない台詞を吐いてしまった。 ……が、今更仕方がない。彼女がギョッと身を竦めた時には既に交感神経の興奮が脊髄を伝わって中枢神経を刺激しており、海綿体をとりまく平滑筋が弛緩して血管が拡張、毛細血管に大量の血液が流れ込んだ結果―― 「なっ、な、何、してるんですかちょっと――!!」 「煩いな、深夜に出す声のトーンじゃないぞ」 「嫌っ――わ、ちょ――はやみさ……」 慌てふためくのも無理はない。 突然、布団の中とはいえ、剥き出しの内臓を掌に握らされる女の子の身にもなってみれば。 そんなモノ、保健体育の授業であっても簡略化された図でしかお目にかかったことがない訳で、遠い噂で聞いたことはあっても直に目にしたことは――ない、のだ。未だ。 「知らないとは言わせないぞ?今まで一緒に寝てきて、時々触ってただろ。エッチ」 ニヤリ、と薄く笑うその顔に、出来る事なら枕を押し付けて息の根を止めて――いや、もう、何でもいいから叫んでこの部屋から飛び出してしまいたい、とマヤは思った。 そうだ、よく考えたらこの状況、とんでもなく変だ。有り得ない。 大体、コドモっぽいとはいえ一応女の自分が、感情がさっぱりよめない冷血漢とはいえ、11も年上で社会的にそれなりの地位を持つこの男と一つのベッドの中で素っ裸でいる事自体がおかしいのだ。 『――この妙な習慣はいつから始まったんだっけ』 必死で思い起こすことで、この切羽詰まった状況から逃れようとする、が、覚醒した真澄はそれを許さない。 マヤの小枝のような手首、その先の更にか細い五指を、密着した自分と少女の肌の隙間に潜りこませると、その間で歪な空間を作り出す昂ぶりに押さえつけ、その硬さと熱さを嫌という程思い知らせてくる。 マヤは彼の胸に片手をつき、何とか元いた場所へと身体を捩じろうとする。 真澄はその長い脚の拘束力を如何なく発揮し、逃げる彼女の動きを封じ込めながら楽しそうに囁いた。 「正直に感想を述べたら、手を離してもいい」 「何の感想!?」 「今までコレは見たことも触ったこともないだろ? 普段生活しててまずお目にかからない物体が、何故君の手の中でこんな状態になってるのか、もうわかるな?」 「う……っだから、一応知ってますってゆったじゃないですか!! だからって何でこんな――せ、セクハラ?みたいな事されなきゃなんないんですかっ」 半ば涙混じりに、悲鳴を上げるように。 そんな彼女を眺めていると――ますます、あの少女漫画じみたオノマトペに胸を潰されそうになってくる――ああ、確かに変だ、おかしい、自分が自分ではないような。 成熟した大人の男でも何でもない、むしろ思春期の少年の様に。 甘い衝動にまんまと絡め取られて、その中で足掻くのがこれ程までに愉しいなんて――マヤ、お前に出会うまでは、全くこんな想いがあるなんて事に気づくこともなかったのに。 「段々――硬くなってきただろ?君が無駄に騒ぐから、変に興奮してこの様だ。 煽ってるのは君だぞ、マヤ」 「は、はぁ?何ソレ――って、速水さん、お願いですから。手、離して下さい」 確かに、自分の掌の中でみるみる形を変え、何か別の生き物のように蠢くものが硬度と熱を増していることくらいマヤも気付いている。それが意味することだって、理屈では理解している。 多分彼は興奮、しているのだ――大人の彼が、同年代の少女たちの中でも特に幼いような自分に、性的に。 「マヤ――別に俺は、今すぐその女たちみたいに俺と“付き合え”とは言ってない。 これでも十分犯罪行為だろうが――それこそまさしく犯罪だしな、ちなみに幾つだっけ今」 「じっ――16です!この間なりましたっ」 「じゃあまだほとんど15歳な訳か。何より中学卒業したばかりってのがマズイだろうな、やはり――だけど……自分でもおかしいってわかってるんだが、止められない」 「え――」 最後の方の台詞は、常の自信過剰な彼の発したものとも思えない、不安定な響きを孕んでいた。マヤは癇癪を起した子供のように騒ぐを止め、そっと目の前に立ちふさがる胸板――の、上の方にようやく視線を遣った。 きゅっと、再び。 あの、下腹の奥――腿と腿の隙間でとぐろを巻くような、あの感覚が。 心臓の高鳴りと全く同時に起こる、ただその切れ長の瞳に見つめられたそれだけで。 「俺だけじゃなくて、君もそうなんじゃないかと思ってるが、違うかな」 「……何」 「君に――いやらしい事をしたくて、堪らない」 「えっ……?」 口調はあくまでさっきと変わらない、淡々と、むしろ笑い出しそうな程軽い。 でも、穏やかだった瞳の色が少し違う――妙に熱っぽくて……マヤはたちまち息苦しさを覚える、さっきから何度も胸を突き上げてきたものとは違う種類の、ドキドキと心待ちにしていたような、くるしさ。 細い腰を押さえつけていた脚の力がすっと抜ける。 が、マヤは先程のように暴れて身を離そうとはせず、じっと真澄の右腕が肩を撫で、握らされた方の二の腕を指先が弄ぶがままに任せている。 『……いやらしい、こと?』 その唇から、そんな生々しい言葉が飛び出すなんて、夢でもみているようだった。 だけど夢じゃない証拠に、火照り切った身体の奥がじんじん疼いてむしろ苦しい位なのは明らかだったし、それは二の腕から腰の窪みに落ちた長い指が薄い皮膚の上をざわざわとなぞり上げているからなのだと、今やマヤはしっかりと理解することができた。 「したく――ないか?マヤ」 「っ……そ、んなの――そんな、事……」 そんな事あるわけないって? 嘘――ほら、また嘘つくの? マヤはぎゅっと瞼を閉じた。 有り得ないって、変だって、わかってる。 わかってるけど、どうしても見つめてしまった。 離れてゆくと、何故だか寂しくて――それを認めたくなくて、出会う度にしかめっ面で悪態をついた。 彼はただそれを笑ってあしらって、そして時々妙に傷ついたような顔で肩を竦めるのだった。 何度となく、彼と彼の会社、自分の恩師と劇団の間にはイザコザがおこり、その度に自分は「大っ嫌い」だと彼を罵った。その癖、その冷たい仮面の隙間にふとした瞬間に浮かび上がる笑顔に猛烈にドギマギしていた。 ――おいで、と初めて言われた夜。 何故だか、拒めなかった。 そしてこの奇妙な習慣が始まった――数カ月に1度の割合で、彼に導かれるがままその大きな掌に委ね、生暖かいベッドの中で素肌を寄せ合う、誰にも言えない秘密の時間を共有するようになった。 『ベッドの中では、パジャマ以外の服は着たら駄目』 最初の夜、彼はそんな屁理屈を捏ねてマヤを追い詰め、しどろもどろの問答が繰り広げられた結果、気付いたら下着だけの姿で彼の腕の中にいた。何しろ、その日も彼女は制服を当たり前みたいに着こなしていた訳だから。 バクバクと跳ね上がる心臓の動きとは裏腹に、くっついた肌と肌は、骨と骨は、まるで違うタイプの男女であるにも関わらず驚くほどしっくり、ぴったりと重なった。 あまりの居心地の良さに、その時マヤは思わず 『――気持ちいい』 と、呟いてしまった。 自分の頭の中だけで呟いたつもりが、どうやら本当に唇を動かしてしまったらしく。 しっかりと包み込まれた肩の上の方で一瞬息を呑んだような音がしたかと思うと、その時初めて、彼の掠れるような優しい声を聞くことができた。 『ああ、俺もだ――』 ――と。 「マヤ……?」 まるで、本当に――カノジョ、にでも囁いているような低い声で呼ばれる。 そんな訳、全然ないのに。 誰かの彼女、でいた事なんて勿論ないから、それは映画やドラマの中でしか知らない感情。 だけど、今にも唇が触れそうな程近くで、熱っぽく自分を見つめている男が呼ぶその名前は、今まで他の誰が呼んだものとも違う、艶っぽい感情に塗れていて――遂に。 「し……し、したい、かも……しれない、けどっ」 「――けど?」 腰の上をさらさら動いていた指の動きがピタリと止まる。 訴えるように熱を秘めていた瞳が、瞬き一つでたちまちあの追い詰めるような色合いを湛える。マヤは必死で息を吸い込み、乾いた唇を舐めると、何だかとんでもない事を口走りそうな自分に必死に待ったをかけながら、それでもその言葉を口にする。 「けど――その前に……ハッキリさせとくこと、あると思う」 「……何だ」 素で眉を歪めた彼に、マヤは思わず頬を膨らませた。 全く、いい大人の癖に、何だってこのオトメゴコロを理解できないんだろう。 本当に、今まで彼女がいなかったって言葉に嘘はないかもしれない、とマヤは思う。 いつしか握らされていた掌は外れて、全身の拘束は全て緩やかに、それでもマヤは逃げずに彼の目を見つめ、理解不足の男の子に向かって諭す様な口調で言った。 「あたしの事、スキなんですか?速水さんは。  好きでもない人と――い、やらしい事、とか――で、できません、普通は」 「それが大人の世界はそうでもないんだけど」 「――そんな大人の事情は関係ないんです。  好きなんですか?それとも子供をからかって遊んでるだけなんですか?」 「俺が君を好きなのは世間的にはかなりイカれた倒錯行為かもしれんが、それでも遊びのつもりは毛頭ない――つまり、好きだ、マヤ」 骨ばった十本の指が、艶やかな黒髪の中に差し込まれる。 そのまま髪ごと頭蓋を持ち上げられ、深くキスされた。 軽い羽根の様な――という世界を想像していた少女にとっては、膝裏を軽く蹴られたような意外な衝撃だった。思わず目を閉じると、さっきまで握りしめていて、今もお臍のあたりで存在を感じる熱いものとかなり似た――柔らかな舌が乾いた唇を割って入りこんできた。勿論、何もかもが初めての衝撃だった――これがキス、に値するものであるかどうかもわからない、ただ今まで以上に真澄の存在を、生きて自分のすぐ傍に居る確かさを与えてくれる、そんなキスだった。 「んっ……ん、っ……」 どうしたものかと狼狽える舌を、真澄の長い舌が絡め取って宥めすかす。 大丈夫――同じように絡んできたらいい――吸い上げて、飴でも舐めるみたいにして可愛がったらいい――そう、中々上手い――そうやってもっと奥まで、歯の裏をなぞって、上顎のざらつきに擦り付けて、全ての感覚を舌で確かめてゆけ――まるでそんな風に言っているような、あくまで甘く優しい舌と舌の会話。 やがて胸の前で縮んでいたマヤの腕が恐々と動き出す。 鎖骨の下を辿り、まるで自分とは違う筋肉の筋を辿り、咎められやしないかとちょっぴり怯えながら、首筋へと滑らせる――が、勿論そんな事はない。笑われることも注意される事もない。同じように、真澄の手が髪の中から白いうなじの上に落ち、喉元を親指が這う。 『さっき、俺の喉を潰そうとしただろ――息を止めて、殺そうと思ったな、マヤ?』 ……戦慄く喉の上で、親指が意地悪く問いかける。 その間にも息はどんどん吸い上げられ、意識はぐるぐると金色の斑模様を描き、しなやかな両腿は段々暑苦しくなってきたシーツの上に醜い皺を刻んでゆく。 web拍手 by FC2

last updated/10/12/16

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