last updated/2010/10/23
「お、お昼ですけど?」 「そうだ」 「引越しの人、来ちゃいますよ!カ、カーテンもついてないし」 「指定した時間は三時。今は二時。外が気になるなら、バスルームに行くか?」 「もう・・・・・・ろ、ろくに話もしてないのに、こういうのって」 「ろくに話もしない内に寝ようとしてたくせに」 「う――」 右手をスカートの下に潜らせたまま、左手でワンピースの背中を剥かれる。 肩を竦めて逃げようとしたが、下を刺激されて力が抜けた隙にするりと腰まで脱がされてしまった。 薄いピンクの下着に被われた、見た目以上に豊かなマヤの白い胸が、昼下がりの光の中に露出する。 その光景を存分に愉しみながら、真澄は背中の金具を弾いて締め付けを解いた。 恥ずかしさの余りに腕を胸の前で交差させる彼女の、固く閉じた瞼に優しく口付ける。 「マヤ、眼を開けて」 「む、無理です――恥ずかしい・・・・・・」 「じゃあ俺じゃなくて、モノだと思えばいいだろ。 何か自分の上で遊んでる猫とか犬とか、何でもいいから。 誰も見てないし、好きにしていいんだぞ?」 「い、言ってる意味わかんないです」 「マヤ――俺に会えない間、こんな風にしたことはなかったのか?」 「え?」 ・・・・・・つぷり。 真澄の指が再び内部に侵入してくる。 交差した腕の下から覗いた白い肌を舌で辿って、臍の上にキスを落として。 「俺に会えなくて、俺に触って欲しくて、自分でこうしたことはなかったのか? 頭の中で、名前を呼んで、自分の指を俺だと思いながら気持ちよくなったことは?」 「い・・・・・や、ああっ、そんな、事――」 魔力を秘めた声が指先とともにじんじんと意識を犯してゆく。 下腹部からわきあがる甘い痺れが背骨を伝って脳を揺らす。 真澄は指を抜き差ししながら、瞬く間に熱く濡れそぼってしまった切ない凹みに愛おしそうに舌を這わせる。 あまりの快感に遂に腰が大きく動いてしまい、マヤは腕の拘束を解いた。 「俺はある――いつもそうだ。 君には何だってしてあげたいのに、できないからな――自業自得なんだが。 だから頭の中で君を好きなようにしている・・・・・・ 妄想の中では、君は俺だけのもので、何でも言うことをきいてくれる、俺だけのマヤだ」 真澄が、自分を求めて自身に触れている――なんて、勿論想像したこともなかった。 しろといわれても無理な気がする。 それだけに、衝撃と興奮でいつも以上にマヤの身体は敏感になった。 固く閉ざしていた心や瞼も、誘われるかのように開いてゆく。 ・・・・・・が、目の前の光景は些か彼女には刺激が強すぎた。 完全に腹の上で捲れ上がったスカートの下で、真澄は顔を埋めて蠢いている。 とっくに剥ぎ取られてしまった下着は左足首に引っかかっていた。 「はやみ、さん――それ、その・・・・・・そ、ゆうこと、しなくてもいいです―― お、お風呂も入ってないのに」 舌で直接そこを嬲られるのは生まれて初めて――という訳ではないが、改めて目の当たりにすると尚のこと、気持ちよさよりも動揺の方が大きくなる。 そういう行為があるものだ、ということも最近まで知らなかったのだから。 何よりも、あの真澄がこうした行為を平然とできる――ということが不思議でもあったし、戸惑いでもあった。 真澄はきょとんとしたように顔を上げると、マヤの動揺の理由を悟るなり何を馬鹿な、といった風情で手を伸ばし、マヤの唇に人差し指を当てた。 「俺だと思うから恥ずかしいんだろ?猫だと思ってろって」 「ね、猫がこんなことするわけないじゃないですか」 「じゃあ夢だと思え」 「明るすぎます」 「いいから、気持ちよくしてあげるから、黙ってじっとしてなさい」 そのまま、唇に触れていた指がするりと口の中に入ってきたので、喋れなくなる。 その指はマヤの薄い舌や歯の裏を弄ぶように蠢き、その舌は未だかつて経験したことのない感覚を探し出そうとまるで別の生き物のように動き回っている。 繊細な襞をかきわけて、耐え忍んでいた艶やかな蕾に真澄の舌が厭らしく纏わり付く。 刺激に震える蕾がふいに甘噛みされた時、マヤは自分でも明らかにわかる程熱いものが下半身から溢れ出るのを感じて、泣きそうになった。 嗚咽のような呻きのような声が勝手に鼻や喉の奥から零れて、何かを求めて身体は、腰は小刻みに痙攣し始める。 恥ずかしいとか、こんな所でとか、速水さんに、とか、余計なことを考えているだけ身体が苦しくなるのだった。 夢でも何でもいいから、今は全てをこの人に委ねないと、そうでないと頭がおかしくなってしまう――だから、名前を呼んだ。 「速水さん――」 返事の代わりに、熱い吐息が太股の内側にかかった。 「あ、あたし、変です・・・・・・すごく、すごく、恥ずかしいけど」 「――けど?」 「い、いい・・・・・・・きもち、いい、の。 もっと、もっと、して――」 マヤからそんな台詞が飛び出すとは思いもよらなかった真澄は、一瞬眼を瞬かせて、それからふっと泣きそうな顔で笑った。 そう、切なくて愛しくて、彼はほとんど泣き出しそうだった。 この大事な壊れもの、自分の強過ぎる想いでうっかり潰してしまいそうな愛しい存在を、どうすれば最も悦ばしく導いてあげられるのか、どうすればこの愛情を彼女にわかってもらえるのか。 ああ、それにしても時間が足りない、言葉が足りない、何もかもが満ち足りない。 だがせめて、限られた中でも彼女に与えられるものは与えよう、今できる限りの全てを込めて。
last updated/2010/10/23