last updated/2010/10/24
「今日は君だけにあげるつもりだったのに」 本当に、そのつもりだったのだ。 僅かに頭の片隅にあった理性が時間を指摘したが、とりあえず無視した。 後ろから抱きしめたまま、最早邪魔なばかりのワンピースを取り上げて下着も全て外し、マヤを生まれたままの姿にする。 「マヤ、ちょっと立ってみて」 「・・・・・・はい」 マヤは素直に答えると、ゆっくりと真澄の膝の中から滑り降りた。 それでも無意識に身体を隠そうとした手を捕まえて、真っ直ぐ自分の前に立たせる。 蕩けた瞳はぼんやりと快楽の余韻に漂い、真っ赤に染まった頬は涙や汗でベタベタで、自分の掻きまわした黒髪がへばりついていた。 昼の光の中でそれはあまりにも綺麗で、それでいて扇情的で。 ふと視線を落とすと、膝の傷口の血は止り、代わりに痛々しい青痣が白い肌を犯していた。 それがまたやけに情欲を刺激して、たまらない気分になる。 自分のものとはまるで違う、よくできた人形のように小さな足と、爪先に視線を落とす。 いつか廊下ですれ違った時、彼女は自分の顔もみずにこの爪先だけを見つめていたっけ―― あの時、隣の監督の挨拶など上の空で密かに考えていたことを、今、する。 そっと怪我をした脚を持ち上げる。 バランスが崩れて前屈みになったマヤの右腕を自分の左腕で支えながら、足の指を一本ずつ嬲っていった。 口の中で、マヤの指先は舌のようによく動き、よく感じた。 そのまま、小さいが均整のとれた見事な脚の上を辿って膝まで。 傷口をそっと舐めて、痛みと快感に怯える顔を確認してから、ぬめぬめとそこだけ別の生き物のようになっている部分に軽く口付ける。 視線が交差する。 ――早く君のものにしろ。 ――早くあなたのものにして。 所有物は所有者に甘く訴える。 どちらがどちらを所有しているのか、その立場は瞬間ごとに入れ替わる。 やがて、マヤは真澄のスーツに手を差し伸べる。 服の上からでもそれとわかる程、彼女を欲して熱く硬くなった彼を解放するために。 緊張と焦りで指先がぎこちなく動く様子を、真澄は瞼を伏せて眺めている。 やっとベルトを外して、それから、その先は。 ――ふと、マヤが顔を上げる。 今は懇願するのではなく、命ずることが互いの心を解き放つ。 命じられた真澄の手が自身を開放する。 マヤにしか見せることのない、剥き出しの真澄自身は。 誤魔化すことも媚びることもなく、ただ純粋にマヤを求め、屹立する。 「君に存分に覚えさせられた指で――どうするか、見てみたいか?」 見えない程小さく頷いたマヤに、 「・・・・・・今は駄目だ」 哀しそうに、微笑んだ。 「次、会うときは。時間も、俺も、全部あげる。 今は――おいで」 無理矢理創り出した時間のリミットはもうすぐそこにある。 互いが互いのものであることだけを確かめたら、明日からまた哀しくも愛しい行為で空虚を埋めてゆくのかもしれない。 それでも――それだからこそ、今は。 腕の中でふわりと抱きしめ、膝の上に抱え上げる。 「大好き」 「俺もだ」 マヤはそっと真澄の胸に両手を置く。 シャツの上から、その下の心臓が激しく動くのが伝わってくる。 太股を支える両手も燃えるように熱い。 多分、自分の身体はもっともっと熱いのだと思う。 だけど、それよりも熱いものは自分の内部にあって、今にもどうにかなりそうな程に求めているのだ。 どちらからともなく指が伸び、一番欲しいものを取り寄せる。 くちゃ、っと小さな水音を立てて、真澄はゆっくりとマヤの中に埋もれてゆく。 「マヤ――」 「ん、っ・・・・・・ああ、速水さん・・・・・・・」 一度蕩けたマヤの内部は、何の抵抗もなく熱く硬い真澄を受け入れた。 深く深く沈めながら、そこにあるはずのまた違う感覚を真澄は探している。 自身も気を抜けばすぐに弾けそうな、綱渡りの感覚を抑えるようにして。 「ゃ、や、ああ・・・・・そ、そこ・・・・・」 「ああ――ここがいいのか?」 浮き上がるマヤの腰を支えてやりながら、その箇所を的確に突き止める。 それから何度かゆっくりと、注意深く掻きまわしてやった。 マヤは激しく緊張と弛緩を繰り返し、可愛い声で断続的に啼き出した。 胸で支えていた手はどんどん上にあがって、真澄の頭を抱きかかえるようになる。 真澄は片手でマヤの反り返った背中を支え、もう片方の手で腰を抑えながら、その場所を教え込む。 理解したマヤは、いつしか自分から腰を振り始めていた。 「あっ、あっ、あんっ・・・・・・っく、は、はあっ、はっ・・・・・・」 部屋の中に、マヤの甲高い声が響く。 ギチギチと、素肌と擦れ合ったソファが卑猥な音を立てる。 真澄の柔らかな髪の毛を掻きまわしながら、マヤは一気に頂点へと昇りつめる。 マヤの頭の奥で閃光が見え始めた瞬間、真澄はマヤの後ろ髪を掴んで顎を上げさせると、深く口付けた。 優しく支えていた両手が、今この瞬間だけは乱暴にマヤを取扱い、掻き乱す。 ・・・・・・ ・・・・・・ 再び弾け散った意識の片隅で、マヤは真澄の声を聞く。 彼女にしか聞くことのできない、彼が散り果てる瞬間の声を。 次、会うときは。 声だけでなく、顔を、身体を、全てを、存分に見届けたいと、マヤは心から思う。 ――だって、あたしは彼の所有者なのだから。
last updated/2010/10/24