第3話


店の外に出ても、まだ腕を放さない真澄。 大股でさっさと歩く、その強引さと訳のわからなさに、 遂にマヤは大声で怒鳴る。 「速水さんっ!!一体、何のつもりですか!」 ほう、と真澄は振り返る。 飲み屋街で交わされる痴話喧嘩は特に珍しくもないのか 側を通る歩行者はそんなふたりをちらりと眺めて通り過ぎるだけ。 「昨日も帰らない、今日も帰らないで飲んだくれか、  いつからそんなに自己管理の甘い女優になったんだかな」 「昨日は撮影でしょ! それに今日は初顔合わせだし、これからみんなと仲良くなってかなきゃいけないんだよ!? いつも飲んでるわけじゃないでしょっ」 「じゃあ連絡くらいよこせ!!二日も無連絡で心配するなってのか」 「連絡しました!電話も、メールも!」 ほらきた、と真澄はふんと鼻息であしらい、 プライベートの携帯のメール受信ボックスを開けてみせる。 「ほーら見ろ、どこにメールがあるってんだ。嘘つくな」 するとマヤは、心底呆れた、という風情で手を腰に当てる。 「速水さん…その携帯でメール確認したの何時」 「帰ってすぐだ、9時過ぎ」 「それまで電源切ってたよね」 「…ああ」 「私、始めそっちの携帯に電話かけたんです。今夜は遅いって。  でも繋がらなかったし留守設定もなかったし。  メール送っても確認するの遅いだろうからって、だから会社の方のにメールだけしたんです。  忙しいだろうし電話はできないだろうなって思って」 「・・・」 「会社の携帯は確認しましたか」 「・・・」 憮然として、コートに手を突っ込む真澄。 そしてもうひとつの携帯を取り出し、液晶画面を眺める。 …慌てて電話しまくったくせに、 画面の一番上にあるメール画像に今頃気づく。 そう、届いてはいたが単に開いていなかっただけ。 いくらプライベートの方でセンター問い合わせをしてみても意味ないわけである。 「・・・開けてみたらどうですか。 ちゃんと、連絡、してますから。」 返す言葉もなく、確認する気力も失せて真澄は携帯電話を折りたたんだ。 …どう考えても自分の早とちり。 …そもそも早とちりするまでもないのではないか。 酔いも冷めた、といった様子で 無言の真澄を見つめていたが、ふいにくるりと踵を返す。 慌ててその跡を追う真澄。 早足で歩くマヤ。 「信じられない、馬鹿。  せっかくの飲み会だったのにっ」 「…すまない」 「なーにがすまない、ですっ  そんな高飛車な謝り方聞いたことない」 「…ごめんなさい」 「許しません」 それもそうだ、 こうして真澄の一方的で理不尽な嫉妬に 今まで何度振り回されてきたことか。 おまけにちゃんと謝らない。 いつも「すまない」か「悪かったな」で軽くあしらい、 いつしか丸め込まれてからかわれているのはマヤ、 ということになるのが関の山なのだ。 今回ばかりは放っておけない、とマヤも必死だ。 「…しかし、君も悪いだろう」 ほらきた。 「何がですかっ」 「…俺にしてみせろ、って言ってもしないくせに」 「…何を?」 「・・・」 言えるか、あんな…こっ恥ずかしい台詞… 「だから何を?」 「…さっきやってただろ。…もういい」 ぶすっとして、捻くれる。 真澄はマヤを追い越し、大股で歩いた。 もう知らん。 ああ、はいはい、俺が悪かったですよ、 餓鬼みたいに嫉妬した俺が悪いんです、と心の中で呟きながら。 「ちょおっと…速水さん、どこ行くの?」 真澄は答えない。 もうこのまま帰ってやる、自分の部屋に。 …顔も合わせづらいし、今夜はもう知らん。 「ちょっと!逃げないでくださいっ」 マヤが後ろから小走りで追い抜く。 冷たい夜風に、寒そうな鼻先が赤くなっている。 パッションピンクのカジュアルなコートが、 小さな身体によく似合う、そしてさらさら流れる長い髪… ああ、 嫉妬するなというのが無理というものだ。 このマヤは、女優であると同時に、この俺の…恋人なのであって。 「謝っても許さないんだろ、じゃあ帰る」 「また…そんな、ちょっ、何様ですか、速水さん!?」 「知らん」 君の事が、好きで好きでたまらない、 ただの馬鹿な男なんだろ、たぶん。 「逃げないで、ちゃんと誠意ってもんがあるでしょ!  納得しないと、もう部屋に入れてあげないよ」 と、最後の台詞は悪戯っぽい響きで。 全く…参った… 真澄は小さく溜息をつくと、観念して立ち止まる。 ネオンの下、向かい合って見つめあう、ちょっと関係不明のふたり。 暫くの間の後、 マヤが…ニヤリと微笑んだ。 「らぶどっきゅん…」 「え?」 「ラブ・どっきゅん、やってくれたら許す。  速水さんが、ここで」 意味がわからない、と真澄は目を丸くする。 マヤはますます大きく微笑みを浮かべ、 さっと真澄の側から小走りで離れる。 三メートルほど離れたところで、くるりと振り返って… 「はい、そこでやって!  ラブ・どっきゅん!さっき見てたんならやり方わかるでしょ?」 マヤは胸の前で両手を組んで、人差し指を立てて構える。 …マジで? 真澄は硬直して立ち尽くす。 恵比寿のど真ん中で、この速水真澄が、「ラブ・どっきゅん」!? しかも、フリ付で!! 「ホラ〜早くしてくださいよ〜  3〜2〜1…」 カウントされて、慌てて真澄は軽く…手を組み合わせる。 マヤが合わせるようにしてポーズをとる。 「らぶ…」 「はいっ」 「らぶ…アホくさ…誰がやるか」 堪らなくなって両腕を投げ出す真澄。 もういいだろ、といわんばかりにマヤの側まで歩いてくる。 それをささっと間を空けて、後ずさるマヤ。 「ちゃんとやって下さいよ!  速水さんインチキですよ、 いっつも私のことからかってるんだから たまには私のゆうこと聞いてください!」 と、口を尖らせるマヤの…顔を見ていたら、 もう心底駄目だ俺は…と、真澄は肩の力を落としてしまう。 わかったよ、 君が言うなら何だってやってやるさ…しかも徹底的に。 ひとつ息を吸って、 コートに突っ込んだ両手を再び取り出す。 そして… 「今夜はー」 と、大声で、一歩。 「マヤを、落としてみっせる〜!」 さらに大きな声で、もう一歩。 マヤはあっけに取られてぽかんと突っ立たまま。 二歩でマヤのすぐ側まで来て、 真澄は胸の前で手を組んだ。 「ラブ、ラブ、ラブどっきゅん!!!」 peridot様!ありがとおおお!!! illustrated by peridot様 ちゃんと、ポーズをとり、 ふて腐れでも投げやりでもなく、 ちゃんと、コミカルに。 しかも大きな声に、皆が振り返る。 人差し指は、マヤの胸の間を指して止まる。 このポーズの教祖であるはずのマヤが、 真っ赤になって口をぱくぱくしている様に、真澄は ようやく形勢が逆転したことに満足な笑みを浮かべた。 「ほら、落とせただろ?」 と、これはマヤにしか聞こえない、小さな呟き声で。 「う…う…ど、どうかな〜?」 精一杯の、抵抗を。 そんなものを軽くあしらって、真澄は微笑む。 「いーや、落ちたはずだ。  このポーズの威力は抜群だから」 絶句したマヤの、 額に軽く、キスをする。 …帰ったら、マヤの「ラブ・どっきゅん」リフレインは避けられないな、 と、こっそり微笑みながら。 END.         ***恥っ・・・!!!!!*** あははははは・・・いやあお恥ずかしい限りでございマス〜☆ 単に社長にやって欲しかっただけなんですよ 「らぶどっきゅん☆」って・・・^^; このコールって何がルーツなんだかライラは知りませんが ・・・そもそも全国レベルなんですかね? 飲み会コールって地方によって微妙に異なりますよね〜♪ しかしホント、意中の彼に向かってノリで 「どっきゅん☆」とできるわけですからオイシイよな〜とか思います^^ 居酒屋マスとか、王道ですが一度やってみたかったのですよ〜 いやあ面白かった!! 2005.1.31 ライラ web拍手 by FC2

はい!っというわけでこの赤面白目滝汗モノのブツを公開する気になった理由は只一つ!!
あの『秘密のperidot』サイトマスター様であるperidot様よりゲットしたさーしーえー!!!
ゲットの経緯及び後書きはコチラ☆
ぺりさん、あの時も、そして今回も!!ホントの本当にありがとうございましたーーーー!!!

    

last updated/05/01/31

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