第9話


日帝劇場、『ふたりの王女』初日。 前の晩から東京には珍しく雪が降っていた。 前日、大都芸能社長室宛に届いた、茶色の薄い封筒の中には、小さな女優・北島マヤからの招待状。 舞台中央、前より7列目。 紫の薔薇の人として、初めて招待されるマヤの舞台。 悦びと、興奮に胸が沸く。 こんな思いを抱いて劇場に向かったことがかつてあっただろうか? 何も言いはしないのに、水城冴子はこの長年の上司の内面の変化を素早く察知したようだ。 「では、鷹宮との提携の件、この先どうなさるおつもりで?」 突然の言葉に、真澄は一瞬眉を上げるも、すぐさま微笑んだ。 「事業は事業。まだ進めたばかりだ、いくらでも変更は可能さ」 水城は疑わしそうに・・・だが面白そうに、小首を傾げて見せた。 やれやれ、この秘書には何も隠し通せないのだから。 「・・・最初からそのおつもりでしたのね?」 「さあ」 「貴方様ともあろうお方が行き当たりばったりに事を進めるわけございませんもの。  しかも、マヤちゃんが絡んでいるともなれば」 水城君、と抗議しかける前に、水城には珍しく軽い笑い声をあげて秘書室へと逃げられた。 そして舞台の幕が開く。 序幕、陰謀と血の渦巻く王家の過去。 登場人物の示唆、鳴り響くファンファーレ。 第一幕・・・可憐なる王女・アルディスの誕生日・・・ 虹の中に現れる、光り輝く少女。 美しく、華麗な、天使の微笑をもつ少女が初めて姿を現す。 大方の予想を大きく裏切るマヤの姿に、観客席は騒然となる。 物語は大きく渦巻き、劇場はめくるめく非日常の世界に支配される。 様々な人々の思惑を乗せ・・・それでも圧倒的な光を放ち、清らかな微笑を浮かべて少女は立つ。 明日へと向かって・・・虹の舞台を鮮やかに生き抜く。 目を逸らすことなどできようもない。 今までだって何度となくそう思い知らされてきた。 だが、この舞台を経て、少女は確実に変化した。 そしてその変化を、自分はこれからも見守り続けてよいという。 速水真澄の胸に、熱い感情が狂おしく騒ぎ出す。 彼女の舞台を観る度に、自分は血の通った人間なのだと改めて知る。 それはとても切なくて・・・とても幸せなことだと、そう思う。 好きか嫌いか・・・確かに、どうでもいいことだな。 そんなレベルじゃない。 彼女に出会えたことは、最高の奇跡で、運命なのだから。 マヤ・・・まだまだ遠いな、お前の道は。 そして俺とお前の間隔も・・・向かい合ったばかりで、まだ遠い。 だけど、もう迷わない。 その幕が閉じ・・・光の中を降りたその時、 俺は今こそ真実の薔薇を贈るだろう・・・だから。 だからもっと傍にいて欲しい。 もっと近くに、この俺のものに。 空気が割れるような拍手。 狂ったような熱気の渦の中、静かに席を立った。 まだ王女の仮面を被ったままの愛しい女は 今日最後の光の中で微笑んでいた。 その下の本物の笑顔を手に入れるために。 楽屋裏へと真澄は歩く。 両手にいっぱいの薔薇、紫の薔薇を抱えて。 END.

20,000ヒットふみふみ、○○○○さんありがとうっ☆ 「まだ速水さんに恋心を抱いていない頃のマヤちゃんに、クールで強引な頃の速水さんが告白して、やっぱ最後はハッピーエンドで!  具体的に言うとコミックス24巻で、パーティー会場に押しかけてきたマヤちゃんを壁際におしつけ手をにぎっちゃったり 「色は紫がいいか?」なーんていってたころのふたりの感じ!」 とのリクでしたが、どうでしょうか・・・?? 気を抜くとすーぐ悶々しがちな社長の尻を叩きつつ、大変楽しませていただきました♪ ラストは超絶甘甘で・・・とも思ったのですが・・・ 恋心を自覚してないマヤちょんに突然告白してもやっぱ戸惑いの方が大きいかな〜と(^^;) そゆうの期待されてた方は・・・ゴメンちゃい(><) でもね、8話目の壁紙のヒナギク、花言葉は「あなたと同じ気持ち」「乙女の無邪気」なんだそうですよ!ホホホ〜(^^) まあこれからこれから、ということで続編も可能な感じで締めてみました☆ 2005.2.26 ライラ web拍手 by FC2

はい、というわけで最終回です。ラストのとこは旧サイト時代にのっけてた後書き。
壁紙云々ですが、当時は一話ごとに素材サイトを死ぬほどかけめぐってドンピシャ壁紙を探しまくってたんです。
今はそんな時間も気力もないので統一テンプレですが^^;
リクの素晴らしさに支えられて、当時も今もサイトパロを書かせて頂いていると思います。○○○○様、今もまだパロサイトを巡っていらっしゃるでしょうか・・・
ご挨拶もなく消えてしまった私なので、こうしてリク作品を再録するのも申し訳ない気持ちもあるのですが、当時出来得る限りの想いをこめて書かせて頂いた事、心から感謝しております。
そして今こうして拙宅に遊びに来て頂いてる皆さんも!本当にありがとうございます!!;;

    

last updated/12/01/28

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