第6話




本作品には以下の傾向を含みます。

SF設定/密室/飼育/(捉えようによっては)獣姦

   

バスルームへと続く洗面所の中で、背中にしがみついたままのマヤを床に降ろした。 そのまま四つん這いになろうとする頭を軽く叩く。 やや怒っている時の俺のその態度に、マヤはしんみりと小首を傾げて見上げてきた。 「そんな顔しても駄目だ。つかまり立ちはできるんだろ?立ちなさい」 「い、イタい――あ、足」 「立たなきゃいつまでもご飯ナシだぞ」 「う……ヤダ」 「じゃあ立て」 「……」 渋々、といった風情で、マヤは恐る恐るタイルの上に蹲った状態から腰を上げ始めた。 それを上から見下ろしながら、両腕を差し延ばす。 マヤの掌がその上に重なり、ゆっくりと体重がかけられる。 膝が僅かに震えているものの、やはり思った以上にスムーズに立つことができた。 「君の飼い方を少し見直した方がいいな――少々甘やかせすぎたかもしれん」 「た、立つ、できる――けど、歩くの……」 「だから。少しずつでいいって言ってるだろ。君のためだぞ」 少し腕を離してみると。 手が追いかけてきたが、そのまま何とか持ちこたえた。 1・2・3――ゆっくり数えて、8秒あたりで膝がかくんと折れるのを抱きとめた。 「8秒か。明日は1分持ちこたえろよ」 「にぁ!いっ、ムリ――じゃ、ナイ、です……」 「どうせ一日暇なんだろ、頑張って歩く練習くらいしろ」 無造作に言い放ってから、しまった、と口をつぐんだ。 みるみる、マヤの大きな瞳が涙で潤み出す。 俺は慌ててその顔を引き上げ、抱きしめた。 「ごめん、窮屈な思いをさせてるのは俺のせいだったな――でも、歩けるようになったら」 腰の辺りに押し付けた薄い肩を擦りながら、どこか言い訳じみた台詞を紡ぐ。 「歩いて、普通の女の子みたいな会話できるようになったら――君も俺も、もっと世界が広がると思わないか?  俺は君を猫として、ペットとしてじゃなく、うちに――家族として、迎え入れたいと思ってる。  誰に駄目だって言われてもな……今度ばかりは譲れない」 「家族……?」 「そう――君は俺の妹か、姪か、従姉妹か、はたまた養子か。  まあ関係はどうだっていいが、俺の保護下に置く。  戸籍がないのが痛いところだが、まあそれもどうにかなるだろ、それで生業を立ててる知人もいることだし。  そうすれば……いつまでも一緒、だろ?」 マヤはふと顔を上げた。 涙は何とか止まったようで、真っ赤な頬を握りしめた掌で拭いながら呟く。 「じ、じゃあ、いまは――今は、マヤ――な、何なの?」 「……ま、俺の背中でお漏らしする位だから、まだまだ愛玩動物以上じゃないのは確かかもな」 「あ、あい――?」 「どっちにせよ、君が大切なのに変わりはないって事。  でも君の成長次第で――“好き”のレベルは上がる」 「……?」 俺は苦笑しながら密着した身体を離し、床の上にそっとマヤを座らせた。 暖房を効かせてあるとはいえ、剥き出しのタイルの上は冷える。 おまけに互いに下半身は濡れている為、余計に肌寒かった。 俺はマヤの着ている大きすぎるシャツのボタンをさっさと外し、汚れたそれを洗濯機に放りこむ。 続いて自分の濡れた服を脱ぐ――途中で、ふと気が付いた。 彼女を風呂に入れるのはいつもの事だったが、そういえばこんな風に一緒に入る事はなかったのだ、と。 ふとマヤを見下ろすと、ぽかんとした顔で俺を見上げていた。 なんでアナタまで服を脱いでるの?っという顔で。 幸いな事に風呂ギライではない猫だった彼女は、歯磨き程には大騒ぎせずに成すがままになってくれる。 それでもお湯が目に入ったり身体を擦ったりする度にそこそこ暴れてくれるので、彼女を風呂に入れるのは結構な重労働なのだった。 「――何だ、その顔は」 「……み、はやみ、さん――ナンか……ちがう」 そう、そういえば彼女は俺を苗字で、それも“さん”付きで呼ぶようになっている。 何故だか下の名前は最初から呼んでくれなかった。 かといって苗字だけで呼び捨てされるのも飼い主としては癪に障るし―― 何のプレイか知らないが「ご主人様」呼ばわりされるのも寒気がする、というわけでの折衷案だ。 「違うって――何が」 マヤは裸のまま、するりと俺の膝の上に手をかけた。 そのまま、下着一枚を身に纏った俺の全身をじいっと見つめている。 ほんの子ども、それも元猫だった、という意識もあって、普段触れ合う中で彼女を――人間の雌、として意識することはあまりないのだが。 あまり、というだけあって、こうした瞬間は何となく居心地が悪くなる。 「カラダ――あたしと、ちがう?」 「そりゃ違うだろ。君は雌で、俺は雄。身体のつくりも脳のつくりも全然違う。  今まで一緒に暮らしてきて何か違う事くらいはわかってただろ?」 ――と、何の前触れもなく。 俺の脚に上半身を摺り寄せていたマヤが、パッと手を伸ばした。 「うわっ――おい!何掴もうと……ちょっと、おい、駄目。  それは絶対ダメだからな!本気で怒るぞ」 「にゃ――あ、え?え、にゃ、何、今の!?」 瞳いっぱいに好奇心を浮かべて股間を狙ってくる手をかわしながら。 俺は果たして無事にこの気紛れな子猫を風呂に入れることができるのか、段々と自信がなくなってきた。 気紛れ――そう、コロコロと泣いたり笑ったり、かと思えば小悪魔よろしく芝居で俺を騙すことも出来て―― 幼いかと思えば思いもよらず不思議な色気を醸し出す、この子は。 ただの愛玩動物――なのか、それとも……? 答えのでない曖昧な問いを掻き消すと。 俺はマヤと同じく裸になり、彼女を抱き上げると、バスルームへと続く扉を開いた。 web拍手 by FC2

last updated/11/01/05

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