第8話




本作品には以下の傾向を含みます。

SF設定/密室/飼育/ややしつっこいエロ描写/(捉えようによっては)獣姦

   

その翌日から、マヤは律儀に“約束”を守り続けた。 マンションにはほぼ通いつめとはいえ、仕事の報告の為にも速水の屋敷に戻らなければならない俺は時折マヤを一人きりにする事もあった。 それでも彼女は不満ひとつ言わず、俺の帰りを待つ間に「学習」を進めていた。 二本足で立っていられる時間は1分、2分と段々長くなり、遂には家具につかまりながら移動することもできるようになってきた。 が、歩行はまだまだ難しいらしく、2,3歩よろめいては倒れるといった具合だった。 語彙の数も爆発的に増え、発音もスムーズになってきた。 未だに驚いた時や何となしの鼻歌、語尾には猫のような声が出る事もあるが、たどたどしかったお喋りも近頃は聞き返す回数もめっきり減ってきた。 その晩――努力はしたものの、マンションの扉を開いた時の時刻は深夜1時を過ぎようとしていた。 もう寝ているだろう、と静かに入ったのだが、マヤはリビングのソファの上で丸くなって何やらブツブツと呟いている。 「ただいま――まだ起きてたのか?」 ソファの後ろから覗き込んでみれば、膝の上には昨夜読むようにと手渡した本が開かれていた。 「……ん――にゃっ!?わっ、お帰りなさい!!」 何かに集中している時――ご飯でも、遊びでも、歩く練習でも何でもだが――のマヤは、恐ろしい程の集中力を見せてくれる。 これ程甘えきって絡んでくる癖に、一度その状況に陥ると俺がどんなに声をかけても、悪戯を仕掛けても全く意に介さないのだ。 だが、まさか読書にもそれが応用されるとは思わなかった。 それも彼女に手渡してあるのは―― 「驚いたな、ちょっとした冗談のつもりだったのに。本当に読めるのか?」 ゴロゴロと喉元にくっついてくる頭を抑えながらシャツの襟元を緩め、床の上に落ちた本を拾い上げる。 「ふりがな、打ってあるから大丈夫だヨ?  でも難しい、聞いたことない言葉ばっかり。コレって、面白いの?」 「うーん、どうだろう。百年前のギャグ漫画だと思えば――面白いと思うがな」 「猫が出てくるね、マヤと一緒。でも何だかこのオハナシ、人間がヘンな事ばっかりしてるの。それが面白いの?マヤは全然面白くない」 「変だと思ったのか?じゃあ案外理解できてるんじゃないか、マヤ。  どこが変だと思ったか覚えてる箇所はあるか?」 正直、その質問を彼女にする事自体が変だと思っていた、その時は。 何しろ彼女に手渡していた本というのは――と、次の瞬間。 マヤの口から淀みなく出てきた台詞に俺は心底度肝を抜かれた。 「『おい、その猫の頭をちょっと撲って見ろ』と主人は突然細君に請求した。 『撲てば、どうするんですか』 『どうしてもいいからちょっと撲って見ろ』 こうですかと細君平手で吾輩の頭をちょっと敲く。痛くも何ともない。 『鳴かんじゃないか』 『ええ』 『もう一辺やって見ろ』 『何返やったって同じ事じゃありませんか』と細君また平手でぽかと参る。 やはり何ともないから、じっとしていた――ねえ速水さん、このヒト、速水さんと同じ、猫の飼い主よね。 “さいくん”ってヒトに猫をぶたせて何が楽しいの?猫がキライなの?」 恐らく、人間の姿になった彼女を始めて発見した時と同じ位。 呆気にとられた俺は、まさに漫画のごとく口を開けてマヤを見降ろした。 俺の膝の上に頭を乗せて、不満そうに唇を突き出している。 本は――『吾輩は猫である』と記された本は、俺の手の中にあるのだ。 「……今の、どの部分だ?」 「ふにゅ?――えと……ココ。でもね、その後の言葉がわかんないから、イミがわかんないの。  ――すると主人は細君に向って『今鳴いた、にゃあと云う声は感投詞か、副詞か何だか知ってるか」』と聞いた…… かんとーしか、ふくしかって、何?それが知りたかったの?それだけでなんで猫をぶつの?ねえ速水さん?」 全く驚くべきことに、本を開いて指示した箇所も、すらすらと読み上げてみせた文章の一言一句にも誤りはなかった。 おまけに台詞とその他の声のトーンまで変えてみせて、ちゃんとした会話として音読してみせたのだ。 「マヤ――もしかして君……」 「ってかね、このオハナシ、最初っから猫に酷いコトばっかりしてるの。  猫がキライな人が書いたの?そんなのマヤ読みたくないにゃ……よ」 「天才だったんだな――」 ほとんどの馬鹿な飼い主が陥る症状――ウチの子は天才なんじゃないか、を地でいってしまった。 いや、しかし間違いなく才能の一つと言って差し支えないだろう。 俺ですら、一度読んだばかりの本の内容を一言一句諳んじて復唱するなんて真似はできない。 まして言葉を覚えたての彼女が、粗筋を押さえるばかりか猫なりに感情移入して読んでいるのは奇跡的なんじゃないか? 「凄いぞ、マヤ!しかし確かに、猫の人権?的側面からは憤慨しても仕方ない話だなコレは。   これ以上読まれて人間不信になられても困るから、今夜はこれ迄だ」 俺はマヤの手から本を取り上げ、目の前のローテーブルの下へ片づけた。 凄い、というのが褒め言葉なのは知っているので、途端にぱっと顔を輝かせる。 が、読まなくてもいい、と言われたのも嬉しかった様子で―― 内容がつまらなくとも、一応俺の言いつけは守り通したのか、とその律義さに感動しつつ、抱き寄せた。 そんな俺の機嫌の良さを察して彼女も大喜びで腹を上向け、必死でじゃれついてくる。 ああ――傍から見ればなんとも馬鹿馬鹿しいこのやり取り。 大都芸能の速水真澄が――不格好なシャツ一枚を着た裸の少女とソファの上でくすぐり合っている、という。 どこからどうみても危ない光景だ――俺が他人なら絶対近づかないね。 「夕飯は食べたな?」 「ん、ちゃんとあっためた、おいしかった。 お皿――は、舐めただけだケド……」 「それで結構、君が台所に立つと後で大掃除したくなるからな。歯は磨いたか?」 「……」 「――洗面所まで歩いておいで」 「はぁあぁにゃ……ハーイ……」 長々と憂鬱な溜息をつく頭を軽く叩いて立ち上がると、俺は先に洗面所へと向かった。 サボらないようにと横目で監視しつつも、この一か月の間の彼女の成長には驚嘆せざるを得ない、と、不器用ながら歯ブラシを必死で動かすマヤを見ながら俺は思った。 洗面台の端に丸く手をかけ、内股で何とかバランスをとって立てるようになったのも素晴らしい。 今夜のご褒美に、寝室へと向かう距離だけ抱きかかえて運んでやった。 ベッドの上に放り投げると、夜はこれから、といわんばかりに大はしゃぎでシーツにくるまり、もがいている。 ――が、申し訳ないがその夜の俺はかなり疲れきっていたので。 帰宅後たっぷり二時間は遊び相手になってやるところだが、その日は限界だった。 「悪い、マヤ――もう寝る」 「えええ!ヤだ!もっと遊ぶ!」 「――布団の中でしりとりだったら、いいよ」 「わかった!しりとりね!マヤ得意だよ?」 いそいそと上掛けの中に潜り込む黒い頭にホッとしながら、照明を落とす。 柔らかなスプリングに身を沈めた瞬間、ずるずると頭の奥から睡魔が押し寄せてした。 嬉しくて仕方ない彼女を何とか腕の中に抱え込んだまではいいが、その胸元に顔を突っ込んでそのまま眠ってしまいたい、というのがその時の正直な衝動だった。 「じゃ、マヤからね!ええっと――ねこ!」 「……こま」 「まつげ!」 「げ?……んまい」 「い――いかがわしい!」 「……どこで覚えた」 「テレビ。い、だよ!」 「深夜放送はやめとけよ――い、い、ね……ぃ……」 もう駄目だ。碌な言葉が浮かばない――頼むから眠らせてくれ、マヤ。 「い――いかげん、おやすみなさい……」 「あ!ズルいっ!!駄目だってば、起きてぇ〜?」 マヤは俺の髪に手を突っ込み、グラグラと揺すぶってきた。 鬱陶しいので無理に向きを変えてひっくり返し、背中から抱きしめ、脚を絡める。 シャツの裾から手を差し入れた途端、ぎゃあぎゃあと喚いていたのがピタリと止まった。 彼女を黙らせるのには今の所コレが一番効く。 「い……っ、あ、にゃっ――ズルいよぅ……?」 すうっと脇腹から乳房の下までを撫で上げ、やわやわと揉む。 たちまちツンと尖った乳首を人差し指で突っつきながら、ぼんやりと呟いた。 「……う、だな?う――うちの猫は甘えん坊――はい、また“う”」 「そんなのつまんなぁいっ!同じひらがなばっかり、止めってルールにしよ?」 と、振り返ろうとした首元に舌を這わせると、くっと背中が反り返った。 全身がぶるぶると震えだし、段々呼吸が浅くなってきたようだ。 首の下から差し込んだ右手をお喋りな唇に突っ込み、シャツの下の手で乳首を軽くひねる。うぎゃ、っと小さく叫んでマヤは身を捩った。 「うぎゃ、や……やっと黙ってくれたな、で、“な”」 「なぁっ!?ああっ、あ……もう、コレって――ん、ふあっ……」 耳の裏の、頭との付け根の柔らかな部分をちろちろと舐めながら、掌を下へとずり降ろしてゆく。 擦り合わせられた太腿の付け根が若干湿り気を帯びているのを察した途端、今すぐ眠ってしまえるはずの身体が――下半身が甘く疼く。 背中越しにその気配を察したのだろう。 そっちの「遊び」に変えてくれるのか、といわんばかりに押し黙り、じっと次の感覚を待ち望んでいるかのような息遣いになった。 が――それ以上、もうどこも動かせそうにない……これ幸い、とそのまま眠りに落ちようとしたその時だった。 「……ヒドい――っ」 ふるふると首筋が震えているのが、遠い意識越しに伝わった。 ああ――泣いてしまったか……嘘泣きでも本当でも厄介だ―― 「――はっ、速水さんと話すの……  朝から、一時間もないっ――マ、マヤ……ずっと、ずっと待ってたのにぃっ」 唇に突っ込んだままの指を抜き、そのままあやすように喉を擦る。 が、マヤは激しく首を振ってそれを拒んだ。 いい加減にしなさい、と頭を軽く叩けばそれ以上の反抗はしないはずだ。 何だかんだとこの子は飼い主と猫の関係をしっかりわきまえている。 ただ―― 「マヤ……じゃあ、キスしろ」 「え――?」 「もう喋る気力も体力もないんだ――代わりにキス、したらいい」 絡んでいた身体の力を抜く。 おずおずと、彼女がこちらに反転してくる。 俺は全身の力を振り絞り、何とか瞼をこじ開けた。 暗闇の中で、きらきらと涙に濡れた大きな瞳が待ち構えている。 「但し、難しい方のキスだ」 と、マヤの顔がぱあっと真っ赤に染まったのが気配で伝わってきた。 恥らう、というよりは――戸惑いと、興奮で。 「あ……あ、アレ――勝手にしたら、ダメって」 「だから今はいいと――イヤなら別に……おやすみ」 言っている傍から再び眠気に押し潰され、押し開いていた瞼が重くなる。 するとマヤは大慌てで、 「うにゃあ!ダメっ!寝たらダメ――する、から……起きて?」 「……」 一瞬の沈黙の後、もぞもぞとマヤは胸元に潜り込んだ。 ほとんど夢見心地で、俺は彼女の成すがままに身を委ねる。 難しい方のキス、は意識がしっかりしている時でも気を抜くと――惨事になるのだ。 何分、元猫の上に不器用な彼女なので。 好奇心が勝って「本当の動く玩具」扱いされる事もあれば、その延長で噛み付くこともあり――加減というものがなかなか理解できないらしい。 この状態で委ねるのは相当危ないはずなのだが……が、その時の俺はそれ以外に彼女の涙を止める方法を思いつかなかったのだ。 布団の中で、マヤはずりずりと沈み込んでいく。 仰向けになった俺の脚の間で四つん這いになり、そっと両手を差し延ばす。 シャツの下から彼女のやけに熱い掌が忍び込み――スウェットのズボンに指をかけて引きずり降ろされた。 ふううっ、と、浅い息が吹きかけられるのを感じる。 彼女にとって未だ謎の塊らしい、人間のオス、の象徴。 先程の生理的な反応の余韻を残し僅かに硬いそれに、マヤは親指の付け根の柔らかい部分で恐々触れてきた。 爪でうっかり引っ掻けないようにとの配慮なのか、五指をくるんと内側に折り曲げている。 それが如何にも彼女らしくて、つい、重い腕を動かして頭を撫でてしまう。 「ふにゃ……じゃあ、キス――するね?」 返答の代わりに、頭に置いた掌を頬に滑らせた。 ふ、とそこにマヤが唇を寄せて指を食む。 ストン、と滑り落ちた俺の手の上に彼女の手が重なり――腰の上に心地良い圧迫感が落ちてきた。 「ん……」 甘い吐息と共に、柔らかな唇がひたり、と。 最初から唇の裏側まで押し当ててくるような、深めのキス。 薄い肉がくっつきながら離れてゆく、名残惜しそうな糸を垂らしながら。 重ねられた両手の指先を僅かに動かしてみる。 マヤがきゅ、っと軽く握り返してくる。 空いた方の掌が内股を撫で上げ、そっと包み込むようにして触れる。 どくん、と脈打つと同時に指を広げて握りしめる。 薄い舌が先端をほんの少しだけ舐める。 僅かにザラついたそれが、彼女が猫だった頃の細やかな名残。 「ぁ……マヤ――」 眠りに落ちる前の鈍い感覚――それと相反する鋭い感覚。 二つの圧倒的な渦に巻き込まれ、どっちつかずの俺は唸るような溜息を零す。 そしてそれはマヤの「キス」を煽り、彼女自身の興奮を引き出す。 四つん這いになっていたのが、正座をするような姿勢で顎を固定して尚も。 きゅうっと扱き上げられた掌の中で、躊躇いながらも呆れる程に反応してしまうのは彼女と同じだ。 俺がマヤに感化されたのか、マヤが俺に感化されたのか……こういう場合に主従関係はあまり重要じゃない、と思う。 感じて鳴くのは人間も動物も同じだ、と。 そんな俺の「普段と違う」、動物じみた行為を、情動を、マヤはとても嬉しそうに受け止める。 俺は俺で、彼女から原始的な所作と悦び方を学ぶ。 誰にも本心を明かした事のない、本心がどこにあるかもわからないような俺が。 彼女の前では、自分の奥に潜むどろどろに溶けたものを、いとも簡単に吐き出せるのだ―― ぺろぺろと音を立てて、マヤは無心で舐めている。 別に美味しい訳でもないはずなのに、キスは深まる程に確かに甘くなる。 貪られるのも蕩ける程に心地良い。 遂に眠気が追いやられ、首の後ろが焼けつくように痛み出す。 肉体の快感は当然だが、彼女の咥内を通じてその胎内に飲み込まれるような感覚がもう手放せない。 舌先だけだったのが、奥をつかってじゅるじゅると絡みながら啜り上げる。 昂ぶりが狭い彼女の掌を突き出して、腰が勝手に浮き上がる。 「あ……あ、すごい――わあ、カタチ、変わった、速水さん」 その瞬間はいつでも驚異らしく。 嬉しそうな声を上げて、扱く掌の速度が加速する。 頼むから夢中になりすぎて爪を立てるなよ――と意識の狭間で思いながら、彼女が更に悦ぶ姿態を見せつけてやる。 彼女に握られた方の掌を、反対の掌と唇が絡まる肉塊の上に重ねて。 ちゅくちゅくちゅく……ズルッ……ちゅうううっ――っ…… 卑猥、としかいいようのない音が、口から、舌から、指から、止まらない。 彼女の手を握りしめたまま、その舌と共に、俺の手で俺自身を無遠慮に弄ぶ。 息が上がる、可笑しいくらい心臓が跳ね上がり、方脚が蹲る白い身体に絡みついてゆく。 頭が熱い、いや、それをいうなら身体中全て、背中には僅かに汗をかき始めている。 乱れた髪の毛が口元にへばりつくのが鬱陶しくて肩で拭う。 それと同時に、反対側の手で思いっきり彼女の頭を抑え込んだ。 「んぁ――!あはぁあっ……」 がくん、と腰を崩し、えずいたような声を上げる。 凹凸の細やかな彼女の上顎に擦り付けながら、食道と気道の手前まで突くと―― そのまま達してしまってもいい、と思う程に気持ちがいい。 が、それを堪えて何とか引き抜く。 「うはっ――あっ、はうっ……」 握りしめていた掌が外れ、マヤは布団の上に両手をついた。 「にぁっ――はやみ、さん……」 ばさばさに垂れ下がった黒髪の中から、甘くくぐもった声でマヤが唸る。 剥がれ落ちかけた上掛けの塊を床に落としながら、暗闇の中で濡れて要求する瞳に微笑かける。 「まだ――駄目」 「ん――ぅ、にゃ、あぁああん……くぅううん――」 切羽詰まると、折角覚えたはずの言葉を全部どこかへやってしまうらしい。 四つん這いのまま、ぐっと尻を突き上げて――猫そのものの姿態で不満そうに鼻を鳴らす。 「最後まで――ちゃんとキスしないと俺もしない」 「うう……ズルいよぅ――もう、気持ち、イイでしょ?マヤは――」 「ほら、早くしないと……また眠るぞ」 「う〜〜っ!!」 軽く上目遣いで睨み付ける。 が、大きく伸びをした後、深呼吸しながら、マヤは最後のキスを試みてきた。 「はぁ――んんっ……」 「――ああ、マヤ――いいぞ、凄く……」 「む……う?んんっ――」 眉を歪めながらも、褒められた事に嬉しそうに眼を細めたのがわかった。 奥へ――もっと奥へと――彼女の限界の、僅か向こうまで。 いつの間にか俺は半身を起こし、小さな頭を押さえつけるようにして激しく前後させていた。 「ふっ……う、ううっ――ぁ、あ、ひぐっ……!!!!」 悲鳴が喉の奥で潰れる。 身勝手なキス、痛みと快感が混ぜこぜの、恐怖と紙一重のような――キスを、何度も何度も、押し付けて、擦り込んで。 「っく……あ――!」 彼女の脚と俺の脚とでぐしゃぐしゃになったシーツの皺、その襞の一つを視界の隅に捉えながら、マヤの咥内に射精する。 何度となく痙攣しながら、止めどなく注入する――彼女の腕もガタガタと震えている、きゅっと瞑った目尻からは涙が零れていた。 瞬間、己の身勝手さを恥じ入る感覚が蘇り――俺は慌てて彼女を引き離す。 「んぁ――っ、ゲホッ」 「おっと――だから、無理して飲むなって」 危ない所で吐き出したものを受け止める。 そうしろと教えた覚えはないのだが、口の中でした時は何故だか飲みこもうとする変な癖がある。 正直、俺としては自分の体液塗れの唇にキスするのは苦手なので――じゃあフェラなんてやめておけ、というところだがそこが肉欲の矛盾する所以で――汚れた手を拭い、彼女の唇を拭き取ってからその身体を引き寄せた。 熱の残る身体を擦り寄せる――弛緩しきった身体に、あまりにも幸せなこの熱。 先程まで熱く自分の欲情をアピールしていたマヤだったが、疲れ果てたのだろうか、ここにきてトロンと眠たげに眼を擦っている。 だが――そっと後ろから差し込んだ指先はあっという間に濡れてしまう。 そのままゆっくり掻いてやると、胸の上でくたびれていた頭がふるふると動き始めた。 「マヤ――もうちょっと上」 「んにゃ……?」 ぼんやりとした瞳で見上げてくる。 どうしたいのか、するつもりなのか、言葉にしなくてもすぐにわかる。 嬉しそうに微笑んだマヤが、背筋を伸ばしてやってくる。 いつものように軽いキスから、複雑なキスへと―― 何よりも愛しいものへ注ぐ行為に歯止めが効かない。 どこか狂った感覚から、もう逃れようがない。 だが―― 全ての出会いに別れがある様に。 秘密に飼っているペットとの別れなど、人生いつ起こってもちっともおかしくない。 例えば遂に親に見つかった、だとか。 囲っていた段ボールを乗り越えてどこかに消えてしまった、だとか。 大事にしていたつもりなのに、ある日冷たく横たわっていた――だとか…… そしてそれは――マヤも決して例外ではないのだと。 その時の俺はどうしても信じる事ができなかったのだ。 web拍手 by FC2

last updated/11/01/06

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