第2話




「あんたが、あんたのバラの花をとてもたいせつに思ってるのはね、
 そのバラの花のために、ひまつぶししたからだよ」

でも俺にはまだわからないんだ。
この“暇潰し”が本当に“愛する”って事なのかどうか。
肝心なことは、そう、確かに目に見えないから――
だから今日も、こうやって闇雲に手を伸ばしてしまうのだけれど。

 

薄い胸。未熟なまま誘うそれ。 舌の先で味わえるのは甘味と塩味。 奥まで誘うと――ほんのりと苦く、狂おしい程欲しくなる。 彼女の味は複雑だ。 この胸の下で可愛らしく嫉妬しているらしい――俺に。 制服越しに伝わる若い心臓の動き。ぴたりと唇を寄せてみると、まるで一体となったかのような錯覚。舞台荒らしと呼ばれる少女の血潮のうねりに、ほんの一瞬、俺は陶酔する。 好き、だとか、愛してる、だとか。 まだコドモのこの子の気持ちを、そんな風に軽々と受け入れることなんて出来ない。 勿論、俺自身も迂闊にそんな台詞を吐くわけにはいかない。 恋人、と呼んでみるのも一種の実験みたいなもので。 この子だって薄々気づいてる。 (アナタは一体、あたしの何ですか――?) 肌を毛羽立てながら、唇を仄かに開きながら。 薄い涙を張った瞳がそう訴えるのを、キスで封じ込める。 細やかな膨らみをなぞる、下着が切り取るそのラインから時折奥に潜り込んだりして。 昨日は彼女の誕生日――胸元の開いた服を着るのはまだ先の季節だから。 意味もなく無垢に刻んでゆく、不埒な大人の欲望の跡。 歯の先で、唇の間で、吸い上げて捩じると彼女の味がまた変化する。 同時に…… 最早「禁断」の意味合いを失って久しい制服の、スカートの裾を捲り上げてゆく。 すぐさま元に戻そうとするその手を押し戻す、他愛無い攻防戦を何度か繰り返す。 埒が明かないので、反抗的な両手を掴んで無理矢理俺の首の後ろに回した。 至近距離で見つめ合ってみれば、やっぱり彼女はどこからどう見ても―― 幼くて。 可愛らしくて。 そして何故だか、色っぽい。 「……キスしろ」 「え」 「志田玲奈に先を越される前に、ツバつけておいた方がいいんじゃないか――と、オトナの女なら思うかもね、多分」 「なっ、な……何バカな事――」 いかにも子供っぽく怒っているような、泣いているような顔。 それでいてその狭間に曖昧な官能を無意識に挟むから――本当に困ってしまう。 俺の太腿に広げられた両脚が、どんどん熱を持ち始めて妖しく動き始めている事に。 本人は一体気付いているのだろうか。 「ほら、早く」 「そんな風に言われて、ハイそうですかなんてできますかっ」 「……仕方のない子だな、大人の階段を三段飛ばしで登らせてやってるのに。 やはり元々が地下三階だと17になっても所詮――ああ、すまん、今のはいくら何でも――マヤ、いいからちょっと――こっち向けって」 「嫌っ!!」 泣きながら身を捩り、膝の上から滑り降りようとするのを、机の間に挟んで閉じ込める。 その時だった。 首の後ろに回った手が――抜け出そうともがいていた手が、ふっと変化した。 ぎゅっと、俺の髪の中に指を突っ込んだかと思うと、やけっぱちの力で引き寄せられた。 まるでバラエティ番組で生クリームでもぶつけられるような勢いで。 俺はぶつかった、マヤの唇に。 彼女の前歯で少しだけ上唇を切る。 びっくりして身を引いた彼女に覆いかぶさり、机の上に上半身を押し倒しながら、そのキスを離さない――執拗に、食らいつく。 髪に絡みついた指先は、戸惑いながら、でも確かに要求していて。 それが少女の好奇心によるものなのかどうかはわからないけれど。 薄い唇が濡れてゆく。 俺の小さな傷口から染みた血を舐め取るような舌の動きは、正直なところお子様のそれでは決してない――と察した瞬間、下半身がぎゅっと疼く。 それがどんどん膨れ上がるに身を委ね、彼女の咥内を貪る。 時折空気を継ぎ足してやりながら、いつしか俺の脚に擦りつけるように押し付けられた太腿の下に右手を差し伸べる。本人以外誰も触れたことのないその肌に、俺の指が、爪が、見えない道筋をつけてゆく。欲望の奴隷となった今は、何の躊躇もなく、ただ奥へ奥へと。 「あ……!」 椅子を前に引き、さらに彼女を机と俺との間に固定すると。 ぴくぴくと動いていた爪先の片方を、足首を掴んで持ち上げた。 しなやかな関節と筋肉は何の抵抗もなく机の縁まで踵を上げてみせる。 片脚だけ開脚したような姿で、マヤは俺の膝の上に密着する。 「や……や、やだ、速水さん、恥ずかしい、これ」 両手が肩を押し戻すのを無視する。 「見えてないから大丈夫」 ドクドクと躍り上がる心臓に頬を寄せる。 「そ、んなワケな――ぁ、あ!ダ、ダメだってば……!」 下着の上からすっと軽くなぞり上げてみたら、掠れ声だったものが鋭さを増した。 そのまま押してみると、か細い窪みに爪一枚分だけ沈み込む…… 「……おい、ちょっと声が大きい。バレたらまずいと言っただろ」 「っ、な――ぁ」 胸に寄せられた俺の頭を何とか押し退けようと、片手で髪を掻き回す。 まるでもっとして、とせがまれているような弱弱しさで。 もう片方の手だけが必死でスカートの下の手首を捕まえる。 そのままもぞもぞと潜らせる、まだ狭い其処が怯えないよう、慎重に。 マヤは固く眼を閉じる。 羞恥と屈辱、あと――快感を知ってしまっている、自身への嫌悪に耐えながら。 「感覚を開け、マヤ――何故秘密にしなければならないか、わかるはずだから」 ハイソックスの端に指をかけて引き、現れたゴムの跡をさらっと撫でながら囁いた。 できるだけ優しく。 皮肉やからかいは禁物。 俺自身に出来得る限りの甘さをもって。 「やだ……いやだ、あんなの……いや――」 本当にイヤそうな声で首を振る。 俺は少しばかり苦笑しながら、 「一番辛いのは前に済ませただろ。これからは――ただ気持ちいいだけだ」 「嘘」 「ほら」 指一本をゆっくり差し込みながら捩じる。 親指は布地の上から擦る様に押し付けて。 それでもまだマヤは気持ち悪そうに小首を振っている。 「やだ、全然よくなんかない――なんで、こんな事、するの?」 仕方がない―― 一度諦め、指を抜く。安心したように下半身の緊張が解けたのがわかる。 その代わりに、背中を支えて上体を引き起こす。 何事かと目を見開いた、その先で薄っぺらい胸の先端に口付ける。 怯えるというよりも、信じられないものでも見るかのように唖然としている。 とてもオトナのする事じゃない――と、その目が言っている。 でも身体は素直に反応する。 ひくっ、と、柔らかだったその部分が硬さを増してゆく。 俺の片手だけで、その胸全体から肋骨まで覆ってしまえそうだ。 揉む、というよりはたださらさらと撫でるように刷り上げながら、視線を交差させる。 このか細い身体は時に思いもよらぬ情熱を放って俺を打ちのめす。 あの感覚を何と呼べばいいのだろう。 敗北感?それとも憧れ? わからないから、こうして手を伸ばして捕まえる。 舌で味わいながら噛みしめる。 (チビちゃん、お前は一体俺の何なんだ――?) 目に見えないものを探しながら、俺はゆっくりとマヤの上を這い回る。 コドモに発情しながら。 そんな自分を訝しみながら。 彼女に沈んでゆく、声も立てずに。 互いの一番深い所に、触れれば気が狂いそうな程の秘密が潜んでいる、きっと。 今は激しい情熱も行為も必要ない。 それはまだ先――きっと、遠くはない未来にあるはずだから。 今はただ緩慢に、彼女の啜り泣きに揺れながら。 俺はあくまで静かに、腰を振る。 web拍手 by FC2

last updated/10/12/05

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