ウベが好きなのはマヤちゃんではなく私でしたぁあ〜!!!(笑 沖縄でチェーン展開されてる『ブルーシール』のね!コチラにお越しの際には是非ドゾ!^^
last updated/12/4/3
延々と繰り返されるカーテンコール、きらめく色とりどりの紙テープに花束、光の洪水。 熱狂する観客に腰を折り、手を振り、微笑を投げかける、既に仮面を外した役者たちの顔。 つい先程までそこで繰り広げられていたはずの永遠にも思えた世界は既に影となり、 歓声の中に消えてしまったというのに、マヤは未だ身動きひとつできずにいる。 歓声がどよめきに変わり、やがてざわめきへと移ろい、遂には雑音となる。 芝居は完全に幕を下ろし、興奮冷めやらぬ人々は口々に感想を述べながら、 あるいは黙りこみながら、四方の扉の外へと流れてゆく。 声をかけてみる。 気づいたのか気づかないのか、おそらくはその両方なのだろうから―― 続いて、思い切って腕をとってみた。 軽い抵抗の後、びっくりしたような瞳がこちらを見上げる。 小首を傾げて空っぽの場内を示してみせると、あ、と微かに唇を開いた。 「行こうか」 「あ、はい・・・ゴメンなさい」 マヤがフラフラと立ち上がるのを、じっと見守る。 ゆっくりと低い段差を上りつめ、重いドアを支えて待ってみる。 最後にからっぽの場内を一目見やってから、マヤはその脇をそっと潜り抜けた。 すぐ目の前に、柔らかな黒髪が揺れて―― つい、触れそうになるのを堪え、真澄はドアを支える手を離し、その後ろに続いた。 (――やはり、な) 人知れず、奇妙な微笑が浮かび上がる。 そう、だからこそ、今日こうして彼女を誘ったのだから。 密かに期待して、その期待が裏切られることさえ、期待したりしながら。 贈り物を贈るということは、かくも愉しく、スリリングなものなのか。 正体を伏せていた頃とは明らかに違う、その意図と想いに自らを追い詰めるような密やかな喜び。 それを彼女は知っているのか、知らないのか。 そして先程の、つないだ掌の意味も。 ああ、だがやはり女の子の気持ちなんていつまでたっても理解できるわけがなくて。 あの夢見心地の瞳の奥に俺が映りこんでいたなんて、多分相当な思い込みであって。 今の彼女の頭の中は舞台の幻を追っているに違いないのだ・・・ほらね。 「・・・っ、わっ」 「危なっかしいな・・・」 劇場の外に出て、マヤが階段を踏み外しそうになったところで腕を支えてやると、 ようやく我に返ったのか、急に落ち着かない具合で辺りを見回し、こちらを見上げる。 その肩に、さっきから忘れっぱなしのコートをかけてやると、マヤはおずおずと曖昧な微笑を浮かべた。 「あの」 「何だ」 「あ、いえ・・・誘っていただいて、ありがとうございます」 「どういたしまして、お楽しみいただけましたか?」 「ええ、もう・・・すごく!」 ほっとため息をついたかと思うと・・・ふいに、その瞳に涙が滲んだ。 真澄は一緒にゆっくりと階段を下りながら、その呟きの全て、聞き漏らすまいと耳を傾けた。 勿論、そんなそぶりなど微塵も滲ませずに。 「アンナが自殺するところ、感動的だった。 ううん・・・苦しくて、ほんとに、息するのもわすれちゃったくらい」 「ああ、隣で何やらうめき声がすると思ったら、そっちに驚いた」 「えっ・・・も、もう!人が真剣に・・・も、もういいですっ」 マヤは慌てて鼻をすすり、ハンカチで目元を拭った。 階段を下りきったところで、ふたりの足元をすうっと冬の風が吹き抜ける。 と、すっかり枯れ落ちた街路樹の葉を撒き散らし、目の前の歩道脇に音もなく夕べの車が止まった。 運転席にいるのは――水城でもなければ聖でもない、見知らぬ男だった。 「さてと、これからどこに行きましょうか?」 「え?」 「四時過ぎか・・・おやつの時間を逃して腹が減っただろう?」 「速水さん・・・!」 「どうぞ」 するりとドアを開け佇む真澄の顔と、自分の周囲とを見回して、マヤは慌てて言葉を探した。 「えーっと、ど、どこへ?」 「内緒」 「でも」 「すっぽかしはナシだって言っただろ」 追い立てられるようにして車内に滑り込むと、その後から素早くドアを閉められる。 運転手の挨拶にマヤが一瞬戸惑った隙に、真澄は反対側のドアからその隣に滑り込んだ。 既に指示されているのか、車はゆっくりと前進する。 静か過ぎるその振動に、マヤは落ち着きなく、膝の上の指を弄んだ。 ――隣で真澄の浅い溜息が聞こえたような気がする。 それでそっと窺うと、流れる冬の街角に視線をやったままの、よく整った横顔が見えた。 窓の外はいつもと同じ街の景色のはずなのに。 窓一枚で遮られたそこと、この静かな車内の空気はまるで別世界だ・・・と、マヤは思う。 その境界に佇むよく見慣れたはずの、だけど・・・少し前から何故か直視できない、男の顔。 ちょっと痩せたみたい、と口に出そうとしたところで言葉が詰まる。 こうして、速水真澄――というか、紫の薔薇の人の隣に座っているというのに。 この落ち着きのなさとむずかゆさは一体何なのだろう? 「さっきの続き・・・」 「はい?」 「アンナ・カレーニナ。面白かったか?」 ふいに真澄の視線が窓の外を離れ、姿勢を正すと、こちらに向かった。 ふっと、いつか覚えのあるような――懐かしい、香りがした、とマヤは無意識に思う。 「あ、はい!面白い――そうですね、でも何だか・・・とても哀しかった」 アンナに完全に同化しきってしまった時、生まれて初めて、妙な苦しさを味わった。 恋愛・・・燃えるような愛、ならば自分だって『嵐ヶ丘』のキャシーを演じた経験がある。 だが、あの時のそれとは何かが違うような気がした。 夫を捨て、子どもを捨て、愛人と生きる道を選んだアンナ。 その生き様は、確かに激しく、情熱的であったのかもしれないけれど・・・どの場面にも、哀しみが漂っていた。 愛するカレーニンと抱き合ってさえ、満たされない何かに追い立てられるように。 『わたしはあなたに嫉妬してるんじゃないの、ええ、ただ満たされないだけ』 ふいに、震えた、低い声がマヤの喉から飛び出す。 真澄がはっとその横顔を見直したときには、既に元の表情に戻っていた。 「どういうことなんだろ・・・」 「アンナの気持ち?」 「はい――その、愛してるはずなのに、愛されてるはずなのに、 どうしてアンナはいつも哀しいんだろうって・・・わかんないんだけど・・・でも、すごくすごく寂しくて」 ――誰かに、触れたくなったの、 と、呟きそうになって、危うくまたひしゃげた声を真澄に聞かれるところだった。 先程劇場内で、舞台世界と現実がほとんど曖昧な意識の最中に、真澄の唇が自分の掌に触れたような。 今になって、思い出したのだ。 急に黙り込んでしまったマヤを窺いながら、真澄はそっと息を吐き出した。 「俺は・・・正直、痛かったな・・・」 「え?」 「求めても、求めても、不毛の愛情、か。 越えられない個体の溝をはっきり認めてしまったら、人はどうすればいいんだろうな」 今、彼女にこの場で言う台詞ではない、とどこかで心の声がしたが、口をついてしまったものは仕方なかった。 左折する車の視点に合わせて街がぐるりと回転して、その瞬間に自分の頭の中まで一回転し―― ふと別の世界に辿り着いたような、あの感覚がつい口を滑らせてしまったのだ。 ――と、軽く後悔しかけたその時、マヤの呟きが聞こえた。 「人を愛すると・・・寂しくなる、のかな・・・速水さん」 「え?」 意外、という様な真澄の視線に晒されて、マヤはドギマギと言葉をつなげる。 心なしか、シートの間の距離をあけるようにして。 何故なら、こんなに広いはずの車内なのに、隣の真澄の存在は段々と大きくなってきていて。 それはますますはっきり認識される彼の服、というより彼自身の香り―― 煙草と、何かよくわからないけど懐かしい、この不思議な香りのせいかもしれない。 「えっ、いや、その・・・だって速水さんがそう言ったんじゃないですか。 どうするんだろうなって・・・それって、寂しいから、ってことでしょ?」 「・・・」 「も、もうっ、わかんないですよ、どうせ私は子どもだしっ、 笑っちゃうかもしれないですけどね、私が愛がどうの、なあんて言っても!」 ふざけて顔をしかめてみせたら、茶化すでもなく、むしろ素っ気無く、真澄は呟いた。 「俺にだってわからない」 「え?」 「そんな溝にぶち当たるほど愛した経験なんて、そうそうないさ、俺にも」 「ま、また〜!」 「何が」 「だって、速水さんオトナなんでしょっ、私なんかよりいっぱい経験とかしてるわけだし」 「何の」 「えっ、だから、もう・・・ほら、レンアイ、とか、そういう話でしょ?経験ってそんなの―― ってもう、なんでこんな変なこと言ってんだろ私・・・」 あわてて俯き、真っ赤になった頬に掌をあてたマヤを見て、遂に真澄は何度目かの含み笑いを吐き出した。 それから先程までの自分たちの会話と行動を振り返り――礼儀正しく聞かないフリをしていた運転手が内心ぎょっとしたことには、 その後速水真澄は半身を折るようにして、ひとしきり爆笑しはじめたのだ。 ・・・さらにぎょっとしたことには。 怒ったマヤは遂に真澄の頭を片手で叩いた。 あの、大都芸能の、速水真澄の頭を、素手で。 「もう!ちょっと笑いすぎです!自分で話振ったくせに!」 「いや・・・いや、別に笑ってるつもりは・・・いや、笑ってるんだが・・・」 大きく息を吐いて、わざとらしく咳払いをする。 それから急に真面目な表情を取り繕って、 「実際、わからないことだらけだよ、特に君に関しては」 「え?」 「だけど、君の好きなケーキなら、多分当てられる」 「ケーキ?・・・じゃ、あててみてくださいよ」 「イチゴのショートケーキだろ」 「・・・あたってます・・・」 「ほらな。あと、好きな食べ物は多分・・・テリヤキバーガーで、飲み物はオレンジジュースだろ? アイスクリームならバニラで、果物はやっぱりイチゴか・・・」 「単純で悪かったですねっ」 「誰もそんなこと言ってないね」 「そんな感じがするんですってば!残念ながら、アイスはウベが好きなんです―!」 「覚えておこう。じゃあ今度は嫌いなものでも当ててやろうか」 ようやく変な緊張の糸が解けたのか、マヤは僅かに頬を膨らませながらも、じっと真澄の目を見つめて話すようになる。 何の思惑があってこの人は今日自分を呼び出したのか、 そして自分はこの先、果たしてあの疑問を問いただせるのだろうか、と軽い不安を抱えながら。 二人の胸の鼓動が、一定の落ち着いたリズムを刻み始める。 そう、この空間、この感覚は・・・どこか奇妙でいて心地良い。 車は渋滞の箇所を抜け、小気味よいスピードで街を縫ってゆく。 「・・・いつのまにあてっこ勝負になったんですか?」 「怖い話、お化けとかユウレイとかはNG。絶叫マシン系は意外と強い・・・ あとは虫か・・・でも蝶とかバッタは大丈夫・・・ゴキブリ、毛虫、ゲジゲジ」 「そんなのスキな女の子なんてあんまりいませんよ、ジェットコースターは確かに大好きですけど。」 「お?でもこの流れでいくと・・・次は俺か」 「え?」 「『何よ、速水さんのイヤミ虫、ゲジゲジの方がよっぽど可愛げがある』って奴」 「それは・・・そんなことも、言ったような気がしますけど・・・」 抗議しようにも、前の自分はそんな言葉で真澄に楯突いていたのは確かで、 ・・・今考えてみれば、紫の薔薇の人に向かってそんな暴言を吐きまくっていたわけで。 そしてそして―― どういうわけか、このところの自分は真澄のほんの僅かな表情や仕草、 行動にまで過敏に反応してしまうのだ・・・どういうわけか! そんなこちらの内心の動揺を知ってか知らずか。 恐らく知っていながら面白がっているようにしか、マヤには思えなかったのだが。 真澄は窓の淵を指でトントンと軽く爪弾きつつ、穏やかにこう応えた。 「せめて虫レベルからは脱却しなくちゃな・・・というわけで、ご機嫌取りだ」 そこで車が静かにとまった。 「ここでいい、帰りは自分の車を使うから、君はそのまま社に戻ってくれ」 さっさと車を降りてしまう真澄に合わせて、マヤも慌ててドアを開け、滑り降りる。 車がそのまま道の角を曲がって去ってしまってから辺りを見回し、やや唖然とした。 そこは途中で何となく想像していたような、何か高級そうな建物だかお店だとかが並ぶような街の一角ではなく。 どこにでもありそうな、公園横にタバコ屋の店先が佇む、簡素な住宅街の道端だったのだ――
ウベが好きなのはマヤちゃんではなく私でしたぁあ〜!!!(笑 沖縄でチェーン展開されてる『ブルーシール』のね!コチラにお越しの際には是非ドゾ!^^
last updated/12/4/3