第4話
「誰ね、あんたは」
「…君は…」
対照的な光景だ、と、真澄の脇に立つ水城は思った。
そもそも真澄と同じくらいの背丈の人物自体あまり見かけないのだが、
真澄とほとんど同じ目線で、臆することもなく向かい合う浅黒い肌の青年。
黒と白、全く異なる美しさの二人の男が、じっと互いを見詰め合う。
――と、比嘉の背中にくっつくように身を寄せていたマヤが諦めて横に現れた。
その手が比嘉の服の裾を握っているのをちらりと見遣った後、真澄はふっと微笑む。
「成る程、堂々とテレビ局に出入りできるようになったか。
よかったな、あの舞台が成功したお陰でいろんな所からオファーが来てるんだろ」
「あ、あなたには…関係ありません。
どうせ、潰れればいいと思ってるんでしょ」
「さあどうだか。君の賭けに乗るのは面白いからな。
次に何をしでかすのか全く予想がつかん」
「もう、どうしてそうイヤミなんですか、あなたって人は!
もういいです、行こう、比嘉クン。お台場だって見るところはいっぱいあるんだから」
「わ、ちょっと、マヤ?」
と、マヤはいきなり比嘉の服の裾を掴んだまま、
ズンズンと入ってきたばかりの入り口に向かい歩き出そうとする。
「ああ、ちょっと待ちたまえ」
「何ですかっ」
「…君じゃない、そこの彼だ」
「え?」
ふたりが立ち止まって振り返る。
真澄はスーツの懐から皮のカードケースを取り出すと、
「大都芸能社長の速水真澄です。
GALAGE☆LANGEのリーダー、比嘉智文君だね」
「大都ぉ…?やっけぇやっさ〜…」
差し出された名刺を手に取ると、比嘉はまじまじと真澄を見遣り、溜息をついた。
「まあ、こちらとしても必死なのでね。
ちょっと話をさせてもらえないだろうか。
間抜けな部下が君たちの気を悪くした誤解も解きたいところだ」
「あ、別にいいよ。俺は今回は観光しに来ただけだし」
「そうはいかない。二度も金の卵を逃したくはないのでね」
「二度?」
真澄は皮肉な笑みを浮かべると、徐々に会話の意味を察し、眉をしかめるマヤを一瞥する。
「そこのお嬢さんも以前うちに所属していたんだがね。
残念なことに振られてしまって以来、彼女の道程も大変だ」
「な…余計なお世話です…!!
私は私で紅天女を目指すんだから…あなたなんかに絶対負けませんから!」
「ああ、その意気だ。だが今は君とその話をしたいんじゃない」
「俺も話なんかないよ。行こうさ、マヤ」
受け取った名刺をそのまま素早く真澄の胸ポケットに差し入れるなり、比嘉はくるりと真澄に背を向けた。
「まあ待ちたまえ。君たちの固執するインディーズレーベルが近々買収される話を知っているのか?」
と、比嘉がぴたりと立ち止まる。
「何ねそれ」
「君らにはわからんだろうが、このところ大掛かりな大掃除が始まってるんだよ、業界では。
うっかりしてると気がつかないうちに所属事務所が変わってた、なんてことも有り得ない話じゃない」
「…それで?」
「例えば君らが毛嫌いする某レーベル…売れたら売れるだけ搾り取り使い捨てるような、
悪どい商売が得意な連中は幾らでもいるわけだ。」
「自分らは違うってな?
金の卵とかさ、アーティストを商品扱いしてるのは同じじゃないの。胡散臭い」
大都芸能の速水真澄に向かって堂々と立てつく比嘉、
その鋭い言葉に周りの関係者は息を詰める。
「でもまあ…何考えてるか、聞くだけ聞くか、マヤ?」
と、ふいに比嘉はマヤの肩を自分の腰まで引き寄せると、にやりと笑った。
「ただしマヤも一緒ね。いいでしょ?」
「いいだろう…俺はどうやらつっぱねられればつっぱねられるほど欲しくなるようだから…覚悟したまえ」
と、真澄も意味ありげに薄い笑みを浮かべる。
あっけにとられるマヤを尻目に、一行はそのまま外へと移動した。
待機していた大都社用車のドアを、真澄自ら比嘉とマヤに開けてやる。
「男の隣はやだ、マヤ間にはいって」
「え、ええっ…わっ」
慌てて身を捩ったが、比嘉の大きな身体に押されるようにして先に車内に滑り込んでしまう。
…ふっと鼻先を掠める、懐かしい香り…ああ、そういえば。
この車に乗ったのは初めてではない、確か前にも…
と、反対側のドアが開き、真澄がその隣に入ってきた。
瞬間、広い車内なのだが僅かにその肱がマヤの肩に触れて…
ビクッ、と思わず緊張してしまう。
真澄は何事もないように運転席の水城に指示を出し、足を組んだ。
比嘉も先程の緊迫した空気は何処へやら、面白そうに指先でリズムをとり、膝を叩いている。
(もう…何よ、コレ…)
困惑したマヤを間に挟み、奇妙な空気を湛えたまま車は動き出した。
同時に、ついに振り出した雨がパタパタとアスファルトを黒く染めてゆく。
「やっけ〜」→厄介。「やっけーむん」で厄介者。
さあ巡り合った三人の珍道中が始まります^^ 本州の梅雨の様子はどうでしょうか?こちらはもう暑くて暑くて・・・耐えられん!!;;
今日、たまたま入ったタコライス屋でマイケル・ジャクソンのダンスコンテストのフライヤーを発見。もうすぐ2周忌ですね・・・早いものだ。
last updated/11/06/07