第3話


↓現ライラより警告↓
*2004年12月に完結済みの旧作です。原作は42巻が出たか出ないかくらい、だったはず。
*前サイト名、HNは伏せてあります…お察しください(涙)
*どうやら前歴三作目のパロ…にして、初の(悪趣味な)コメディらしいです。

「おはようございます」 美しい受付嬢が艶やかに微笑む。 朝日に聳え立つ、大都芸能ビル正面玄関。 その若社長の姿を認めると、誰もがはっと息を呑んで深々と挨拶する。 そしてその後ろのマヤに気づき、 戸惑いながらもまたお辞儀するのだった。 鷹宮家との婚約が謎の破談に終わって既に二年が経過していた。 原因は様々に取り沙汰されたものの、 結局仕事にしか興味のない真澄に、相手方の令嬢が愛想を尽かしたのだろう、 というのが大方の噂話の主流となっていた。 その真澄が。 3ヶ月前に出した爆弾宣言。 女優・北島マヤとの婚約。 マスコミは勿論、各界蜂の巣を突いた騒ぎとなったが、 その後二人はのらりくらりとコメントをかわし、 公の場に二人して現れることもなかった。 それが、何の前触れもなく二人揃っての出社である。 「馬鹿、おどおどするなマヤっ 注目されてるじゃないか」 「…そこにあたしがいるからですよ、多分…」 小声で呟きながら、 最上階の社長室へと向かう。 「おはようございます、真澄様」 二人が秘書課に入るなり、水城が現れた。 と、その後ろのマヤ…真澄に気づき、 「あら?マヤちゃん?どうしたの?」 「ああ…次の演技の役作り上、  今日一日お邪魔させてもらうことに…」 「そうそう、えーーーっと、有能なオフィスレディの役なんです。  速水さんのとこに来たら水城さんもいるし、手っ取り早く役作りが…」 「…?マヤちゃん次の役は樹齢4000年のコモチナナバケシダの精じゃあ…?  それに今日顔合わせじゃなかった?」 …コモチナナバケシダの精だと!? 梅の木の精の次はよりによってシダ、シダ植物だと!? シダってお前、一生のほとんど無性生殖じゃないか!なんて寂しいっ!! おまけに胞子が発芽した後の前葉体は雌雄同体っ あのハート型の裏で雨の日は水の中を精子が卵子まで泳いでいって… な、なんて卑猥な役なんだ…許さんぞマヤっ、そんな芝居はやっぱり許さん!! と 真澄が中学校理科の記憶をパラパラとめくり赤くなったり青くなったりしているうちに、 真澄の姿をしたマヤはさっさと社長室の中に入ってゆく。 「その役なしになったんです!!」 と、釈然としない顔の水城に言い捨て、真澄もその後を追った。 ドアを閉めるなり、真澄は机の引き出しのあちこちをかき回し、 また戸棚や本棚のあちこちをかき回してやっと目的のものを探し出した。 それは最新型の高性能通信機。 たまに聖との仕事の際に用いるものであり、耳の後ろに薄く張り付けると一見してそれとはわからなくなる。 骨伝導で本人にのみ音声が伝わり、そこを押さえながら発言すると どんな小さな囁きでも相手に届くという優れものである。 「これをつけろ。君にはどうしても今日の会議に出てもらわねばならん」 「会議っ!?私ひとりじゃ無理ですよ!!」 「当たり前だろ。俺もその場にいるから、俺の言うとおりに喋って指示を出せばいい。」 「そんなに上手くいくかなあ…」 とぼやくマヤ。 コンコン、とドアがノックされ、水城が資料を持って現れる。 「真澄様、本日の予定の確認と会議の資料、お持ちしました」 「ああ、始めようか」 と応えたのはマヤの姿の真澄。 眉をひそめた水城に、慌てて後ろのソファに腰を下ろす。 耳の後ろを指し示しながら、マヤに目配せする。 マヤは溜息をつくと、緊張した面持ちで椅子に腰を下ろした。 「真澄の役」というのにまだ慣れないマヤではあったが、 何とかやっと水城とのミーティングを終える。 小首を傾げながら出て行った水城の姿が見えなくなると、ふたりとも大きな息をついた。 「まあまあ、じゃないか?  とりあえずは午前中を乗り切ってくれ。そうしたらあとはデスクワークだけだから」 マヤは溜息をつくと、首を振った。 「はあ、疲れた…速水さんやっぱ疲れてますね…肩凝ってるし、  あちこち筋肉痛ですよ〜」 その口調に、なにかというと「オジサン」を持ち出してはからかう気配を感じとり、 「…筋肉痛が次の日にでるのはまだ若い証拠だ。  それにその筋肉痛の原因は俺ひとりのせいじゃないだろ」 とやり込める。 その意味を理解したマヤが顔を赤くするのと同時に、 再び水城が顔を出した。 「真澄様、そろそろ会議室の方へ」 「あ、ああ」 二人は社長室を出て歩く。 小さな歩幅の真澄の後ろの、幾分大股で歩くマヤ。 秘書課の女性陣は、仕事をする振りをしつつその光景をそっと窺う。 若くして大都グループ時期総裁の呼び名にふさわしい有能さに加え、 その類稀な容姿と物腰は、社内はおろか経済界でも知らぬものはいない速水真澄。 その真澄が、婚約しただけでも一大事であるのに、 相手は長年衝突していたはずの北島マヤである。 『紅天女』とはどれ程のものなのか。 突き刺さる視線に何だか息苦しさを感じながら、マヤは歩く。 後ろの真澄はどう感じているのだろうか…? 「え、マヤちゃん会議室にまで?」 「ええ。会議の様子なんて滅多に見れないですから。  是非演技の参考にしたいんです。  話を聞いているフリして頭は眠ってるどこかの人事課長とか、  ろくな企画も作成しないでレジュメの端にお…速水さんの文句羅列してる野郎とか…  まあいろいろ面白いものが見れそうでしょ」 「…確かに、まあ特殊な業界でもあるし、面白いかもしれないけど…  マヤちゃん退屈しちゃうわよ?」 大丈夫、まずそれはない、と真澄は心の中で呟いた。 会議室前までくると、 マヤは真澄を廊下の端まで引っ張った。 その掴んだ腕があまりに自分の…真澄の手の中にすっぽりと納まってしまうのに びっくりしてしまう。 おまけに、自分のやっと胸のあたりに顔がある。 これでは思わず「チビだ」と真澄が連呼するのも無理はないかも、と納得してしまう。 「やっぱり無理ですよ、なんか突っ込まれたらどうするんですか!?」 長身を屈め、不安そうなマヤ。 「大丈夫だ。君は役者だろう?  おまけにいつも見てる俺じゃないか。さあ自信を持つんだ、横で俺が見ていてやる」 とその頬を両手ではさみこむ真澄。 …自分の顔を真近でみるのは… まあそんなに面白いものでもないが、仕方ない。これはマヤなのだから。 と、心の中で呟く真澄。 「俺の仮面を被るんだ、マヤっ」 「速水さんの仮面…私は速水さん…」 マヤが自分に暗示をかけるように呟いた。 と、ふいに挟まれていた真澄の両手をそっと外すマヤ。 その目は… ああ、仕事モード・マスミンそのものなのであった。 「なにをぽかんとしてるんだ、チビちゃん。行くぞ」 と、耳の後ろをこつん、と指しながら、 マヤは颯爽と会議室のドアを開けた。 >>注:コモチナナバケシダ << 分類:オシダ科 学名:Tectaria fauriei Tagawa カテゴリー:絶滅危惧種 形態の特徴: 常緑の多年草。根茎は短く、葉を束生する。 葉は1回羽状、長さ50cm になり、頂羽片と1〜3対の側羽片がある。 頂羽片の基部に無性芽をつけ、中軸に広い翼があり、最下羽片は2裂する。胞子嚢群は円形で、包膜は盾形。 カワリウスバシダの質感で、形はナナバケシダやハルランシダに似るが、羽片付け根中肋より無性芽を生じる。 …尚、4000年も生きるかどうかは全くわかりません☆ BYライラ web拍手 by FC2

この辺りから徐々に悪趣味化してくる6年前のライラ的笑いのツボ…シダって何さ…スイマセン、ホント;;

    

last updated/04/12/14

inserted by FC2 system