第6話


一掴みですっかり掌の中だ。 その細い腕を引き寄せる、マヤは痛みに眉を曇らせる。 「い、いたい…速水さんっ」 か細い叫びも無駄な抵抗も もう無理なんだよ、マヤ。 この屋敷には誰もいないし、 お前の全てはこの瞬間から俺のものだ。 俺は無言で彼女を引きずった。 何がおこるのか予感してか、彼女はしきりに いやだ、なんで、わからない、と繰り返していたが 俺は聞く耳を持たず廊下を突き進む。 バタン、と扉が開く。 軽い彼女の身体を掬い上げてベッドに投げ出す。 白いワンピースがふわりと広がる。 慌てて、その中で頭をあげるマヤ。 頬は上気して、唇が戦慄いている。 何か言葉を探しながら、何も言えないという風情で、 しかしもう言葉などいらない。 これからすることで、お前は俺の全てを知ってしまう。 ベッドに肩膝を乗せ、そのままマヤの薄い肩を引く。 抵抗することなく引き寄せられるが、 見開かれた眼には困惑と恐怖が溢れる。 「速水さん…」 すがるような声に惑わされることなく 俺は小さな唇に舌を這わせた。 上唇をなぞり、口角の窪みをなぞって、するすると顎を伝う。 もう一度、反対側の口角へ、そして肉と肉の間へ… ぬるりと 濡れた歯の隙間は開かない。 その歯の羅列を、 ガタガタ震える腕を押さえ込んだままでなぞる。 ひとつ、ふたつ、みっつ… ついにその歯が開く。 悲鳴のような声があがる。 「おねがい、はなして…」 「何を?薔薇の理由も、お前の身体も、俺はどちらもはなさない」 そしてお前の拒絶も受け入れない。 一緒に狂ってしまうまで離さない。 腕を捻りあげて、上半身を押さえつけた。 跳ね上がった白い脚を片方の脚で押さえつけ、 うつぶせのマヤの 白いうなじが黒髪の間から垣間見える、 それを唇でかきわけて、くわえてみる。 そこから全身に、瞬時に鳥肌がたったのが 掴んだ腕の感触でわかった。 「何故祝福した」 くわえたままのうなじの 皮膚の下の骨に舌をあてがい ありったけの愛情と憎しみをこめて 皮膚をぐりぐりと動かす。 ずるりと滑ると、そのままシーツと首の間に滑り込む。 「何故俺を祝福した…幸せになれと、  その顔でなぜ言った…!」 身体を反転させる。 乱れた黒髪の下の顔は 既に興奮と困惑で涙まみれだ。 ぐちゃぐちゃ。 もっと、ぐちゃぐちゃに… 「なんで…そう、願うことも、ゆるされないの?」 わからない、というように眉をひそめて。 声を絞り出して。 「紫の薔薇に人に、幸せになってほしいって、  そう思っちゃ…駄目なんですか!?」 「俺のことを知っていて、それであの台詞か!  それで桜小路と結婚すると…」 ひょんなところからまた怒りが湧く。 愛してる、愛してるよマヤ… 愛しすぎて捻くれてしまったこの情念に 油を注ぐようなことをお前は平気で言う。 「駄目だ…駄目、お前は…もう…」 一瞬緩んだ腕の力、 その隙にマヤは全身の力を振り絞って 俺とシーツの隙間から身を捩る。 「だから駄目だって…」 薄く笑って、 俺はその足首を掴み寄せる。 「きゃ」 と、声にならない声を上げて、 立て直しかけたマヤの身体は 再びシーツの上に転がる。 細い、 その手首とさほど変わらないんじゃないかという 足首を唇に引き寄せる。 柔らかな土踏まずに舌を這わせる。 俺が洗った足…普段は硬い靴に覆われて 陽の光を浴びることもない柔らかな足の裏… ひた、 と舌が指先まで進んだところで くすぐったさか恐れか マヤは小さく呻いた。 ちゅる、と 音を立て、五指を口の中に含む。 指を舌で弄る、吸う、掌に包み込んで。 口から解き放つ。 そのまま手を離す。 マヤは動かない、 うつぶせのまま、黒髪の中に顔を埋めたままで。 そんな彼女の両の耳を掌に挟みこむ。 ゆっくりと振り向かせる、 見開かれた瞳の中に、狂った眼の男が映りこんでいる。 「…舌が、痺れてきただろう?…身体も」 震える睫の先に舌先で触れる。 …それはふわふわとして、 まなじりで涙腺へと続く一瞬は夢のように心地よい。 流しつくした涙の跡をなぞり、 黒曜石の瞳を、眼球を舐めあげた。 涙に濡れているのに、そこはひやりと冷たかった。 「今夜は聞きたくないんだ、お前のお得意の台詞…  大嫌いだという可愛い叫び声…  その眼をみれば十分だからな」 そう、あの酒には甘い薬が仕込まれていた。 意識を失わせてしまうのでは意味が無く 俺がどれほどお前を愛し、どれほど絶望しているか その眼で、身体で知ってもらうには… はっきりと起きていてもらわねば困る… シュ、 とワンピースのファスナーを降ろす。 小さな金属はちょうど背骨の真ん中で絡まって止まる。 その隙間に手を差し入れる… 熱い皮膚が、冷たい俺の掌の下でビクリと動く。 左腕にうつ伏せで抱えたまま、 差し込んだ右手をゆっくりと動かしてみる。 ギシリ、 とベッドが軋み、ゆっくりと俺は首を上げた。 天蓋の紅い幕が照明に揺れて、 その皺の数を数えるようにして撫で上げる。 ざわり、 と緩やかな背中の産毛がさざめく。 ゆっくりと上へ、それから下へ、また…上へ… 「う」 と、喘ぎを抑えたマヤの顔。 簾のように顔を覆う髪をかき分けて耳に掛け、 その顔に俺の顔を寄せ、覗き込む。 「気持ちいいのか?  手が冷たくてびっくりした…?」 眼の焦点が合っていない。 唇は何かを言おうとしてかぱくぱくと動いてはいるが。 上下に動かしていた、 手を今度はもっとゆっくりと…下まで… もっと、熱い皮膚の上まで滑らせる…さあ、どんな顔をしてみせるんだ…? 腰の付け根の窪みまで進んだところで、 びくり、と全身が跳ね上がる。 ああ、ここが一番敏感なのだろうと、 人差し指で円を描いてゆく。 遂に、ある一点を押したところで、 マヤの眉根は苦しく歪み、 声が出せない代わりに俺のシャツの袖口を噛み締めた。 「ここ…ここがいいのか?  ああ、そうなんだな…」 ゆっくりと解き放て、俺の手でお前の全てを。 心の壁も身体の膜も全て解き放て… できればお前もそれを望んで欲しい、 …ああやめよう、今更期待することなど… 絡まって動かないその先を引き剥がし、 割れた蝉の抜け殻の下、 青白く艶やかな肢体が浮き上がる。 皮膚を覆う薄い膜に指を掛け、引っ張り上げる。 美しい…と素直に溜息が出る。 柔らかな白い膨らみが膜につられて引きあがる、 その間に小指を差し入れた。 瞬間、動かなかったマヤの身体が大きく反転する。 ばたん、 と大きな魚のように、 シーツの海の中に転がるマヤを俺は見下ろす。 仰向けになり、震えながら、 少しでも俺との間を空けようと 指が、腕がシーツを掻き毟る。 片手でシャツのボタンを外しながら、 もう片方の手でゆっくりその髪を撫でた。 ごめんな、ごめんなマヤ… 俺がお前の紫の薔薇の人であること お前を苦しめながらお前を愛してしまったこと お前に与えられるべき全ての祝福を 壊してしまう俺を…許してくれないのなら せめて憎んでほしい、俺の、紅天女… web拍手 by FC2

今も昔も然程変わらぬライラ的三大フェチズム
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last updated/05/01/30

  
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