第2話



俺を憎んでいくらでも前に進むがいい――

かつて、俺はそう言って彼女を抱いた。
全てを忘れたくなったら、また来るがいいと、姑息に付け加えておいて。
初めての行為に、幼い自分の肉体にまさかこんな反応が隠されていたなんて、と驚愕し茫然とするその顔を見て――よもや姑息な本音の方まで現実のものとなるとはその時の俺は全く、何の予測もしてはいなかった。
それなのに。
彼女は時折此処にやってきては――要求した。
俺を憎む権利を、どん底から這い上がる力を、そして若々しい情熱の捌け口を。
他でもないこの俺に、彼女は求めてきたのだ。

そして俺は決してそれを拒むことなく――拒むことなどできるはずもなく――彼女に利用されていると見せかけ、存分に彼女を利用し、虐げた。
何故この行為をマヤが許しているのかはわからない。
本音とは裏腹の行為を敢えて自らに課すことで、俺との関係を決定的に破壊したいのか……それとも……?
――彼女が何を考えているかなんて、俺には到底理解できない。

いや、理解などしなくてもいい。

この感情に、行動に、理屈を捏ねる事など無意味だ。

耳元で呼んでやると、彼女の全身がカッと熱くなり、湿った内部がきゅっと縮むのがわかった。
吐息と共に耳たぶを噛んでやったら、いやいやをするように首を振る。
そんな様はただでさえ幼く見える彼女を更に幼く見せ、俺は僅かな後悔と同時にそれを上回る嗜虐心に苛まされる。
小さく蹲る彼女の上に、抱きかかえるように覆い被さる。
ブラウス越しに伝わる、柔らかな背中の肉、その丸み、体温。
はっきりと表情は見えないが、黒髪の下で快楽に慄く顔が目に浮かぶようだ――苦悶と紙一重の、その顔が。
 
「気持ちいいか、マヤ?」

「あ……あぁっ!」

ねちゃねちゃと、わざと音を立ててやる。
小指に引っかけた下着を引っ張りながら、人差し指と中指で掻き回してゆく。
その度に薔薇色の襞が揉みくちゃにされ、切なく嗚咽を零すのが心底愉しい。
動けないなりに、小刻みに尻を震わせながら、その刺激を存分に堪能する彼女は。
無邪気で、邪で、図々しくて、憎らしい程可愛らしくて――もう全てが裏腹だ。

「ふっ……う、くぅっ……ッ!」

歯を喰いしばるのなど、もう諦めてしまえばいいのに。
思わずそう言いかけるのを抑える。
堪えながら涙を流すその姿に、俺の心臓は狂喜の鼓動を早めてゆく。

「答えろ、マヤ」

垂れ下がった髪の毛を右手で掻き上げ、耳の上にかけてやる。
露わになったその顔は案の定。
桃色に上気し、瞳は潤んで、僅かに唇の端から唾液が糸を引いている。
おぼつかない視線がこちらを捉える前に、反対側の耳の裏を舐めながら逃げる。
彼女がこの行為の最中、俺の目を見ようとしないのと同じように。
俺も彼女の目をまともに見るのには酷く勇気がいる――身体の反応とは別の何かを見つけてしまうのが怖くてそうしているのだと、教えるつもりは毛頭ないが。

「これは……何だ、マヤ?ひょっとして漏らしたのか?」

「ちが……っ」

「じゃあ何でこんなに濡れてる?」

指の動きを微妙に変化させてやる。
先ほどまでPCに向かっていたせいで冷たく凍えるようだった指先は、彼女の熱と液で十分に暖められ、よく可動する。
襞を掻き分けながら膣口の縁まで撫で擦ってやると、熱を帯びて凝り固まった粒が悲鳴を上げるように縮み上がるのが親指越しに伝わってきた。
わざとするまでもなく、掻き回すごとにえげつない水音が響く。
密着した彼女の肉と俺の皮膚の隙間はより滑らかさを増してくる。

「俺の指で気持ちよくなってるから、だろ?
こんな恰好で、縛られて、痛くて、恥ずかしくて堪らないはずなのに。
勝手に腰を動かして自分で快楽を引き出してる――そうだな、マヤ?」

「いやっ……放して、お願いっ……放してよ!」

駄々をこねる子供の様に全身を揺すり、逃れようと叫ぶ。
が、俺は完全に潰さない程度に体重をかけてそれを抑え込む。
突き上げられた腰が、股間が誘うように躍り上がるその姿に。
堪えきれず、遂に笑みを零してしまった。

「厭らしい腰遣いだな。もうイきたいのか?」

「う、ぁ……」

「じゃあ望み通りにしてやる――甘いな、俺は」

言うと同時に、割れ目に沿って引っ張り上げていたショーツを小刻みに上下させた。食い込んだ薄布が淫裂をしごき上げ、掻き上げて、其処に新しい感覚を次々と刻み付ける。
ぐちゅぐちゅ――と。布と肉と蜜とが擦れあう、糸を引くようなその音。
薄い肩がぶるぶる震え、太腿が痙攣し、掠れるようだった喘ぎが鋭さを増してくる。
ぱたた、っと、絨毯の上に数滴。
溢れ零れ落ちた愛液が音もなく滲んでゆく。

「うぅっ……はぁ……」

掌全体でマヤの小さな尻を包み込み、花弁を捏ね上げ、摘み上げて愛でる。
俺の胸の下で、抑え込まれたマヤは激しく悶えている。
淫らに歪む腰を、肩を、喉を――びくびくと俺に擦りつけて。
一端身体を起こして指を引き抜くと、圧迫から解放された背中が弾かれたように跳ね上がった。
後手に縛られ、正座した足首と太腿は梱包用の紐で堅く拘束された姿。
1時間余りその姿勢を強要していたから、感覚は鈍って禄に身動きさえ出来ないはずだ。
それが今、与えられる官能に耐え切れず、不自然に捻じ曲がって小刻みに震えている。
布越しの愛撫に蕩けていたその部分は、触ってもいないのにひくひくと動いて要求する。
さあ、どうする――舐めてやるか、まだ指で遊んでやるか、それとも。

「……やめておこう」

「……え」

「その天邪鬼が治るまで、指も舌もお預けだ。大体イヤ、なんだろ?」

完全に捲れ上がったスカートの下、白く小さなマヤの尻が剥き出しになっているのを見下ろす。
濡れしぐれた薄布は既に下着としての機能など果たしてはおらず、その下の物欲しげな花弁をより淫靡に見せつけているだけだ。無機質な室内、青白い人工灯の下で、それはとても似つかわしくない生々しさで存在する。
思わず漏れたのは何の溜息だろう――
色情のものというよりは、緩やかに手折ってゆく何よりも愛しい存在への憐みに近いのかもしれない。

「……え、あっ!?」

愛しさと憎らしさを込めて、俺は足を突き上げた。
くちゅっ、と沈むそこに、靴を履いたままの爪先を静かに押し付ける。

「なっ……何を――」

抗議する暇など与えず、踵を宙に浮かせるようにして、抉るように食い込ませる。

「ひっ――や、やめて下さいっ!あ、足で……なんか、や、あ……!?」

「……下手な芝居はやめろ、マヤ。随分と良さそうじゃないか?」

「い――あ、んん〜〜っ……!!」

折り曲げられて突き上げられた腰が、俺の脚の動きに合わせて前後に揺れる。
始めは嫌悪から逃げようともがいている様子だったその動きに、次第に媚態が加わる。
靴先から快楽を得ようと擦り付けてくる――何て倒錯的で、卑猥な光景。

「爪先だけでは不満だろ?」

ずるり、とそのまま奥へ突っ込んだ。
下着は臀部の狭間に線をつくりながら引き攣り、靴紐が愛液まみれの花弁に絡みついてにちゃにちゃと音を立てる。その途端、周囲にツンと甘く濃いマヤの薫りが立ち込めた。

「ぃっ……!?あ、イヤ、い……あぁああっ!」

ずりずりと。不快な痛みを感じるはずの行為に啼き喚く彼女の顔。
これ以上ない程紅く上気した頬にだらだらと涙が筋を作る。

「いい匂いだ――見てみるか?お前の液で黒く濡れて――もう使い物にならないかもな、この靴は」

「ふぁあっ……や、やめ……あっ、やぁぁぁぁ!!」

一度ギリギリまで追い詰められ、突き放たれて。
靴先という有り得ない部位で凌辱されながら責められているうちに、彼女の理性は遂に正常を保つのを手放した。
ぴったりと俺の左足首に襞を食ませたまま、マヤは絶頂を迎え、音もなくひれ伏した。

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last updated/10/11/17

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