いやはや、またしても間が開いてしまいました〜>< 本日は連続UP!次の第10話で完結でございます^^
last updated/12/6/10
最初に車を降りた道路まで出ると、大通り沿いに暫く歩いた。 途中でふと賑やかな音がすると思ったら、一本通りを入った先の神社で縁日が開かれていた。 狭い商店街から神社にむかって屋台の列がずらりと並び、沢山の人で賑わっている。 思わず足を止めてしまったら、少し覗いていこうか、と真澄も中に進んでゆく。 アニメのお面に、ヨーヨー釣りに、金魚掬い。 おもちゃのくじ引き、モデルガンの射的、色とりどりのヒヨコたちの鳴き声。 ふわふわの綿飴、けばけばしいラメ柄の風船、甘栗を焼く香り。 屋台のモーター音に混じる子どもたちの歓声や、鉄板の上で焼けるお好み焼きと、 あらゆる音と匂いがひしめきあうその光景は、久しくマヤも遠ざかっていたものだ。 「すっかり忘れていたな、縁日なんて。子どもの頃はよく来たのに・・・ でも売ってるものややってる事はあまり変わらないもんなんだな」 「・・・」 「どうした?不思議そうな顔して」 反対から向かってくる人の流れに押しやられそうなマヤの肩を引き寄せた瞬間、 周囲より頭ひとつ抜き出た真澄の視線がふと落ちてくる。 つまずきそうになりながら体勢を整え、やっとその顔を見上げる。 「いえ・・・速水さんに子どもの頃があったなんて、 福留さんに会わなかったら信用できなかったなあ、って」 「ひどいことを言うな」 「だって・・・この中にいるのも何か変な感じだし…どんな子どもだったんですか?」 「当ててみろ」 「ひねくれてて、イジワルで、冷淡で、強引で、いじめっこの、ガキ大将」 即答してみせたら、火を点けかけた煙草を落としそうになるほど、大笑いされた。 ――素直でマジメだったよ、ガキ大将ってのは当たってるいるが。 ――へえ、じゃあ途中で変わっちゃったんだ? ――そうだ。 ・・・それから暫くまた無言で歩いた。 一度だけ、どうしてもやってみたかった、三角の紙がケースの中で渦巻くくじを引いてみる。 マヤはビニール製の人形を当ててしまい、真澄にはキラキラ光るゴムボールのセット。 くやしくてもう一度引きたいといったら、一等のPS2くらい後で買ってやる、と苦笑された。 別にモノが欲しいんじゃなくて、ただ引いてみたかっただけなのだ。 幾つか店を回るうちに、マヤの両手はビニール袋でいっぱいになってしまう。 「ご満足いただけましたか?」 「こんなに屋台でお買い物したの初めてです・・・! 何だかすっごく得した気分ですね、大人買いってやつですか!?」 「・・・買ったのは俺だし、そんなおもちゃで喜んでるようじゃやっぱりチビちゃんだな・・・」 「うっ・・・も、もう、またイジワルなこと言う・・・」 と、帰りかけたところで、ひときわ大きな子どもの泣き声が耳に飛び込んできた。 3、4才位だろうか。 ひとりきりで、真っ赤な頬に涙をぼろぼろ零しながら、マヤの側に近寄ってくる。 周囲に付き添いの大人の姿は見えない。 「速水さん・・・どうしよう、迷子ですよね?」 思わず側に屈みこんでその男の子に声をかけてみる。 ――ママがいない、ママどこ、 と真っ赤になって泣きじゃくるばかりで話にならない。 「ママいないーっ!ママどこおおっ」 「無闇に泣いてもママは出てこないぞ、ママが行きそうな場所とか特徴とか、よく考えてみろ」 「ちょっと速水さんっ、こんなちっちゃい子に何言ってるんですかっ」 「俺がその位の年にはそうしてたぞ、自分で迷子預かり所を探して大人しく――」 「うわああああんっっ!!!」 「もうっ、余計泣いちゃったじゃないですかっ」 「やれやれ・・・」 すると――突然、何をするかと思えば。 唖然とするマヤの目の前で、真澄はその子をひょいっと持ち上げ、肩に乗せてしまったのだ。 「ほら、泣くならもっと泣いてママを呼べよ」 速水真澄の頭の上で、小さな男の子が盛大な泣き声を上げ、母親を呼ぶ。 その珍妙な光景を、マヤだけでなく周囲の人々も思わず振り仰いで見る。 暫く歩いているうちに、人混みの中から呼ぶ声がした。 母親に再会したとたんに男の子は泣き止み、母親はふたりに礼を言ってまた人混みに戻る。 「さてと、流石にそろそろ戻ろうか」 もう一度、来た道を逆に戻って通りに出る。 もうすっかりと暮れ果てて、街にはぽつぽつとネオンの明かりが灯り始めた。 仰ぎ見た灰色の空に、星の姿は見えない。 星どころか、月の影すらも。 ――星を観にいくって、どこにいくんだろ・・・ と、4、5分歩いたところでぴたりと真澄の足が止まった。 「ここ・・・?」 『区立文化会館』 の文字を外観に抱えたその建物は、周囲の新しいビルに挟まれるようにしてひっそりと立っている。 廃ビルというほどのものではないが、窓という窓にはブラインドが降り、 人の出入りがあるような感じはあまりしない。 だがふたりが入り口の階段を上りかけたところで、中からどっと人が出てきた。 親子連れに学生カップル、老夫婦と、年齢層は様々だ。 「何をやってる所なんですか?」 「まあ、どうぞ」 人の群れが通り過ぎた後、扉を開いて待つ真澄に中に促される。 マヤはその壁に貼ってある張り紙に目をやり、 「長年のご愛顧誠に有難うございました――当館は明日で閉館とさせていただきます・・・」 「多分今のが最後の客かな」 「え、じゃあもうおしまいなんですか?」 「さあ、どうでしょうか」 ニヤリと笑うと、そのままスタスタとエントランスホールを抜けて歩いてゆく。 受付の小部屋には電気がついていたものの人の姿はなく、 リノリウムの廊下がぼんやりした蛍光灯に白々と浮かび上がる。 建物全体に古めかしい気配と匂いが漂っていて、 壁に貼られた最近の防災ポスターやコンサートのチラシなどと妙に対比していた。 「あの、こんな所に勝手に入っていいんですか?」 廊下の奥を曲がり、関係者しか立ち入れないような階段を上ってゆく真澄の背中に声をかける。 と、上の階のほうで物音がしたかと思うと、上った先の廊下で初老の男と鉢合わせた。 「こんばんは、おじさん」 「おっ、速水のぼっちゃんだな!今最終が終わったとこだ、ちょっと待っとれよ」 荷台の上に置かれた機材を運ぶのを手伝い、突き当たりのドアを開けてやる。 つん、とカビ臭い匂いが漂い、この建物はやはり頻繁に使用されているわけではなさそうだ。 「これでよし・・・さてと・・・いやあ、あんたも久しぶりだなあ! えらく立派そうになって。あのガキがこんなにねえ」 三人で廊下を歩きながら、男は真澄を見上げて大声で笑う。 「おじさんこそお元気そうですね、この会館も内装が変わりましたか?」 「ははは、これは五年前かな?俺もここができてからの古狸だが、もう駄目だな、時代よ時代。 まあ、閉館前に懐かしい客が沢山来てくれたし、幕引きとしては最高さ」 「急に無理なお願いをしてしまって申し訳ありません」 「いやいや、馴染みのあんたから電話があった時は驚いたがね。 特別最終上映、ゆっくり名残を惜しんでもらえれば俺も嬉しいよ」 そこで、小さくなっているマヤに気づく。 「おや、あんたの妹さん?それとも姪御さんかな」 「いいえ、違いますが・・・」 「北島、といいます」 突き当たりのエレベーター前で立ち止まり、男がボタンを押す。 「5階だ、真っ暗だが適当に入っててくれ。すぐに始めるよ」 「ありがとうございます」 そこでふたりして小さなエレベーターに乗り込む。 「えらい愛想いいんですね・・・ここも常連客?」 「俺が愛想よくしてたら変か? ――そう、福留さんの店に行った帰りは必ず来てたな」 「ここは一体・・・」 ガクン、と小さな箱が揺れて扉が開く。 同じような白い廊下の先に、劇場の入り口にも似た両開きの扉。 ふと、そういえば今日の昼には一緒に観劇していたことを思いおこす。 今日という一日は―― なんと長くて、短くて、次々と思いもよらない出会いに満ちていることだろう? つい昨日まで、自分は舞台に立ち、光を浴びて、薔薇を受け取り。 酒を飲み、紫の薔薇に思い悩み、様々な真澄に出会って・・・今、ここにこうしてふたりでいる。 「さあ・・・どうぞ、静かにな」 扉を開け、中に入る。 50センチ程目の前に垂れ下がった暗幕を、真澄がそっと開く。 恐る恐る足を踏み入れた、そこに広がっていたのは。 満天の、星の空――
いやはや、またしても間が開いてしまいました〜>< 本日は連続UP!次の第10話で完結でございます^^
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